「うう……。体が重い……」
ローレンとの模擬戦から五日後の朝。アルハレムは王城シャイニングゴッデスにある自分用に貸し与えられた部屋のベッドで、うめき声のような声を上げて鉛のように重たい体を無理矢理起こした。
アルハレムにとって全身に酷い疲労感を感じながら朝を迎えるのはもはやいつものことだった。
更に言えば同じベッドに、一糸纏わぬ裸体を汗と何かの液体で汚したリリア達五人の魔女が、幸せそうな寝顔で寝ているのもいつものことだった。……言うまでもなく昨晩、ここにいる全員で何度も肌を重ねた結果である。
知られれば嫉妬に狂った世の男達に背中を刺されそうであるか、事実は事実。魔女達と肌を重ねたことで消費した生命力を回復させようと、薬草を仕込んだ煙管を取ろうとしたアルハレムは、自分の隣でシーツが盛り上がっているのに気づく。
「何だこれ?」
首を傾げたアルハレムは盛り上がったシーツを捲ってみた。すると……、
「……………」
顔を真っ赤にした寝巻き姿のアリスンと目があった。
「……………………………………………………え?」
いつの間にかベッドに潜んでいた実の妹の目を覗き込みながらアルハレムは、たっぷり十秒沈黙してから呆けた声を漏らした。
「お、おはようございます。お兄様……」
「オ、オハヨウゴザイマス。アリスンサン……」
顔を真っ赤にしたまま蚊の鳴くような声で挨拶をするアリスンに、アルハレムは棒読みの口調で挨拶を返す。それと同時に妹を見つめる兄は、全身から大量の汗がにじみ出てきたような気がした。
(……い、いつだ? 一体いつアリスンは俺達のベッドに潜り込んだ? まさか俺、アリスンとまで肌を重ねて……いや、それはない! いくらなんでもそれはない……はず。でも万が一に過ちを犯していたらどうすればいいんだ? 近親相姦なんて重罪だし、母さんに何と言えば……いや、それ以前にアリスンに、妹にどう償えばいいんだ?)
冷や汗を流しながら頭の中で高速で必死に考え事をするアルハレム。そうしていると彼の背後で今まで眠っていたリリアが目を覚ました。
「ふぁ……。ん~、よく寝ました。おはようございます。アルハレム様。今日もいい朝で……あら?」
目を覚ましたリリアはアルハレムに挨拶をする途中で、己の主の隣で寝ているアリスンに気がついた。
「……え!? あ、ち、違うんだリリア! 俺は決して妹に手なんか出していない! 過ちなんて犯していない! 近親相姦など……!」
「アリスンさん。貴女、今頃ベッドの中に入ってきたのですか?」
何やら必死で言い訳をしようとするアルハレムを余所にリリアは呆れたような目をアリスンに向けて言った。
「…………………………え? リリア? 今頃って、どういうことだ?」
「どういうこともなにも、アリスンさんってば昨日の晩ずっとこの部屋を覗き見ていたのですよ。ベッドに入りたければ入ればいいのに……」
主の質問に何でもないように答えるリリアだったが、その内容はアルハレムにとって決して看過できるものではなかった。
「ちょっと待て!? アリスンってば昨日の晩、俺達が肌を重ねていたところを見ていたのか!? リリア達、それに気づいていたのか!?」
「皆が気づいていたかは分かりませんけど、私とツクモは気づいていましたね」
「………!?」
リリアの言葉にアルハレムは絶句した。
(……そ、そう言えば昨日の晩、リリアとツクモさんが肌を重ねている最中に何度かドアの方を見ていた気が……。それでその後、二人の行為がいきなり激しくなったのはアリスンが見ていたからか……)
「それにしてもあれですね? 全く関係のない部外者に見られながら肌を重ねるというのも中々に興奮……」
「アリスン? どうして覗きなんかしたんだ?」
紅潮した頬を両手で押さえて体をくねらせるリリアを無視してアルハレムがアリスンに聞くと、妹は目をそらしながら兄に答える。
「……だって、お兄様と一緒のベッドに入りたかったから……」
「俺と一緒のベッドに? どうして?」
「……お兄様が今日から私を置いて、クエストの旅に出るんでしょ? リリア達と……それとローレン皇子様達だけで……」
「……ああ」
アリスンの若干拗ねたような声にアルハレムは短く答える。彼女の言う通り、今日はアルハレム達がクエストに挑戦するための旅に出る日だった。