魔物使いのハンドレッドクエスト   作:小狗丸

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第九十話

 アルハレム達とローレンが一時間程話をしていると、ついにこの夜会の主催者が大広間にやって来た。

 

 盛大なファンファーレと共に姿を現したのはギルシュの現国王、ヨハン・リーダス・ギルシュ。

 

 中央大陸の南半分を支配する大国ギルシュの頂点に立つ人物であり、ローレンの父親でもある。

 

 ヨハン王は大広間を見回すと、ゆっくりとした威厳を感じさせる声で夜会に集まった王族と貴族達に語り始める。

 

「皆の者、よく集まってくれた。今宵はこのギルシュにとってこの上なく喜ばしい報せがある。すでに知っている者もいるかもしれんが、ギルシュに古くから仕える貴族の家に女神イアスが創造した書物、クエストブックに選ばれて冒険者となった者が現れた」

 

 このヨハン王の言葉に反応して大広間にいる全ての王族と貴族達の視線がアルハレムに集中した。そして王は、夜会の参加者達の視線が一人の貴族の青年に集中したのを確認すると、新たな冒険者の名前を呼んだ。

 

「その冒険者の名はアルハレム・マスタノート。ギルシュ建国の頃より辺境の地を守り続けてきた名門マスタノート家の長男である。……マスタノート辺境伯よ」

 

 アルハレムの名前を告げたヨハン王はアストライアに視線を向けて声をかける。

 

「ははっ」

 

「貴公の娘達はどれも優秀な戦乙女ばかりだと聞く、それに加えて息子が冒険者に選ばれるとは……。優秀な子供に恵まれた貴公を余は羨ましく思うぞ」

 

「ありがとうございます、国王陛下。国王陛下にそこまで言っていただけるとはこの上ない光栄です。ここにはいない二人の娘達も今の言葉を聞けば必ず喜んだことでしょう」

 

「うむ」

 

 臣下の礼を取りながら答えるアストライアにヨハン王は満足げに頷くと、次にアルハレムに視線を向けた。

 

「そしてアルハレム・マスタノートよ」

 

「は、はい!」

 

 自国の頂点に立つ人物に直接名前を呼ばれてアルハレムは緊張のあまり声を震わせてしまう。

 

「よくぞ今までクエストブックの試練から逃げずに立ち向かい、それを全て達成してきた。今日までギルシュの王族と貴族達で冒険者に選ばれたのは、我が息子のローレン一人だけであった。故にギルシュの貴き血からお主と言う新たな冒険者が現れたことを余は嬉しく思うぞ」

 

「こ、光栄です!」

 

「うむ」

 

 緊張で体を固くしながら答えるアルハレムにヨハン王はまたもや満足げに頷く。

 

「さて……。皆の者、今更言うまでもないがギルシュを建国した初代国王は冒険者であった。クエストブックに記された百の試練を達成し、その褒美として女神イアスにこの神秘の巨城シャイニングゴッデスを創っていただいたのを切っ掛けに、ギルシュの建国を宣言したのだ。

 それ以来ギルシュの王族は国に忠誠を誓う冒険者に『勇者』という名誉を与える代わりに、ギルシュの発展のために活躍することを約束させてきた。そして歴代のギルシュの勇者達は百の試練の達成までは叶わなかったが、それでもギルシュの発展に多いに貢献してきた。

 ギルシュの歴史は冒険者から始まり、勇者の伝説はギルシュから始まった。

 そして余はギルシュの勇者の伝説に、ここにいるアルハレム・マスタノートの名を新たに加えようと思う!」

 

 ヨハン王は大広間に集まった王族と貴族達に、アルハレムを新たなギルシュの勇者にすることを宣言した。


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