アルハレム達の着替えが終わる時には、時刻は既に夜になっており、王城シャイニングゴッデスの大広間では大きな夜会が開かれていた。
夜会には王族と城勤めをしている貴族、あるいは王都の周辺に領地をもっている貴族達が集まっており、それぞれが交流のあるもの同士で会話をしていたのだが、アルハレム達が大広間に現れた途端にそこにいた王族と貴族達全員の視線が彼等に向けられた。
新たなギルシュの勇者になるかもしれないアルハレムを見定めようとする者。
ドレス姿となったリリア達五人の魔女の姿に見とれた者。
魔女とはいえ魔物が王城の中にいることに嫌悪の表情を浮かべる者。
マスタノート家の勇名と蔑称を知っていて敬う、あるいは嘲笑うような目で見る者。
皆、様々な種類の視線でアルハレム達を遠巻きで見ているなか、十人ほどの集団が彼等に近づいてきた。
「これはマスタノート辺境伯、お久し振りです。そしてアルハレム君と皆もさっき振りだね」
集団の先頭に立つ人物、ローレンは初めて会った時と同じ爽やかな笑みを浮かべてアルハレムに挨拶をする。
「ローレン皇子、お久し振りです」
「また会えましたね、ローレン皇子」
「ああ、そうだね。……それにしても凄い人気だね」
アストライアとアルハレムが挨拶を返すと、ローレンは辺りを見回してこちらを遠巻きで見ている王族と貴族を確認して、感心したように言う。
「でもそれも仕方がないか。何しろ新たなギルシュの勇者ってだけでも凄いのに、アルハレム君はあのマスタノート辺境伯の長男で、しかも魔女を五人も従えているんだ。話題には事欠かないし注目されるよね」
「いえ、ローレン皇子? 俺はまだ勇者になると決まった訳じゃ……」
アルハレムがそう反論しようとするとローレンは呆れたようにため息をついた。
「はぁ……。まだそんなことを言っているのかい? ギルシュ建国から続く名門で、今日まで隣国エルージョとの国境がある辺境を守り続けてきたマスタノート家の長男。身柄がこれ以上なく確かなアルハレム君が勇者になるのは最早決定事項なんだ。アルハレム君だって本当は分かっているんだろ?」
「そ、それは、まぁ……」
「夜会の最後で父上、国王陛下がアルハレム君を紹介するだろうから、それまで楽しみなよ」
「楽しむのは……無理だと思います」
楽しめと言うローレンにアルハレムが苦笑いを浮かべて答える。
自分達を珍しいものを見るような目で見てくる王族と貴族達に囲まれたこの状況で、夜会を楽しむのは無理があるだろう。ローレンもすぐにそれにきづいて「それもそうだね」と苦笑を浮かべる。
「じゃあ、それだったら僕達と一緒にいない? 僕もアルハレム君達の話をもっと聞きたいからね」
「ええ、ローレン皇子がよろしければ是非に」
このような状況では話ができる相手がいるのは大変ありがたい。その事もあってアルハレムがローレンに返事をするとリリア達も頷く。
「はい♪ 私もお話ししたいことがありますからね♪」
「………」
「ルル、ローレン、皇子、と、話、したい」
「まあ、ツクモさん達だけで食事をするのも味気ないでござるからな」
「私達でよろしければ」
以前の会話でリリア達はローレンとそれなりに打ち解けたようで、その表情は柔らかい。……だが、
『………』
リリア達に対してローレンの後ろに控えている数人の女性達、恐らくは彼に従う戦乙女達が複雑な表情でアルハレム達を、正確には五人の魔女達を見ていた。
(……リリアとツクモさんの言った通りだな。ローレン皇子に従う彼女達、俺達……というか、リリア達を嫌っている?)
分かり辛いがローレンに従う戦乙女達の表情から敵意に似たものを感じて、アルハレムは内心で首をかしげた。
(リリア達が魔女、高位の魔物だから警戒している? ……でもそれとは何だか違うような?)
いくら考えてもアルハレムには、戦乙女達がリリア達に向ける敵意に似た感情の正体も、それを向ける理由も分からなかった。