魔物使いのハンドレッドクエスト   作:小狗丸

9 / 266
第八話

 特性。

 

 女神イアスが自らの子供達のために、困難に立ち向かう助けになることを願って創造した力。

 

 特性には大きく分けて二つあり、一つは種族が共通して持つ「種族特性」、もう一つは個人によって効果が異なる「固有特性」。イアス・ルイドに生きる全ての生物は、種族特性と固有特性を合わせて必ず最低でも二つの特性を持っていた。

 

 そしてアルハレムのステータスに記されている【特性】は「冒険者の資質」と「超人的体力」。

 

「冒険者の資質」はヒューマンの種族特性で、効果は「クエストブックを手にする可能性、クエストブックを開き冒険者となる権利を得られる」。つまりはこの特性を持つヒューマンしかクエストブックを手に取り冒険者になれないことを意味する。

 

 次に「超人的体力」はアルハレムだけの固有特性で、効果は「【生命】の最大値を千、増加する」。この【特性】の効果によってアルハレムは超人のような生命力を持ち、リリアと何度も交わっても死なずにすんだのだった。

 

 この世界の生物は【生命】が零になれば死ぬが、逆に言えば【生命】が零になるまではどんな状態でも死んでいないことになる

 

 剣で体を深く切り裂かれても、弓矢で胸を貫かれても、【生命】はいきなり零になるわけではなく凄い早さで減少するだけで、零になるまでに治療が間に合えば助かるのだ。

 

 だから【生命】を飛躍的に増加させることができるアルハレムの特性、超人的体力は戦う機会が多い冒険者の旅で心強い助けとなるだろう。

 

「でもまさか、こんなところでこの【特性】のありがたみを実感するとはな……」

 

「そうですね、私もそう思います」

 

 苦笑をしながら言うアルハレムにリリアが笑いながら答える。

 

「でもアルハレム様がこれほど逞しい方だったのは私にとってこれ以上ない幸運です。私、アルハレム様のために粉骨砕身尽くしますから、どうかこれからも沢山可愛がってくださいね♪ できれば毎日で♪」

 

「はは……。ど、どうかお手柔らかに……」

 

 満面の笑みで告げるリリアに、アルハレムはひきつった笑みを浮かべてそう言うことしかできなかった。

 

 ☆★☆★

 

「あらあら。随分と長く眠ってしまったようですね」

 

「みたいだな……」

 

 夜通し肌を重ねていたアルハレムとリリアはあの後すぐに眠ってしまい、次に二人が目覚めて地下室から地上に戻ると、空では太陽が沈もうとしていた。アルハレムがこの教会跡地に着いた時も日が沈みかけていたことを思い出すと、どうやら丸一日地下室で過ごしていたようだ。

 

「仕方がない。今日はもう一回地下室に降りて野宿するか。リリアもいいか?」

 

 夜の森は獣だけでなく魔物の動きも活性化するため非常に危険だ。それに野宿をするなら地上よりも獣も入り込んでこない地下室の方が安全だろう。

 

 それを理解しているためリリアは特に反対することなく頷く。

 

「ええ、構いませんよ」

 

「食料は保存用の干し肉があるから今日のところはそれで我慢してくれ」

 

「いえいえ♪ 私は別にアルハレム様の精力でも一向に構いませんよ?」

 

「……お前は俺を本気で殺す気か?」

 

「冗談ですよ♪」

 

 そんな会話の後、アルハレムとリリアは再び地下室に降りると、地下室の床に布を敷いて簡単な野宿の準備をした。

 

「それでアルハレム様? 明日からは一体どうするつもりなんですか?」

 

 干し肉だけの食事をとっていると、リリアが今後のことについて聞いてきた。

 

「ん? ……そうだな。実は俺、家族の誰にも言わずにクエストブックを開いてここに飛ばされたからな。多分実家の方では行方不明の扱いになってるだろうから、一回実家に帰って……」

 

 キンコーン♪

 

「……何だ? 今の音?」

 

 突然軽い調子の音が地下室に響き渡りアルハレムが言葉を遮る。音がした方に視線を向けるとそこにはクエストブックが光っているのが見えた。

 

「クエストブックが光っている? どういうことですか、コレ?」

 

「まさかもう次の試練が記されたのか?」

 

 アルハレムがクエストブックを手にとってページをめくってみると、彼の予想通り二枚目のページに新たな試練が記されていた。

 

【クエストそのに。

 おともだちになったまものさんに、てきさんをたおしてもらってください。

 まものつかいなら、おともだちのまものさんのじつりょくをしるのはたいせつなことですよー。

 それじゃー、あとじゅうよんにちのあいだにガンバってください♪】

 

「これってリリアが一人で敵と戦って勝てばいいってことか?」

 

「そのようですな。丁度いいです。私の力をアルハレム様にお見せする絶好の機会です♪」

 

 新たな試練の内容にリリアはとても乗り気のようだ。アルハレムとしても彼女の実力を知っておきたかったからこの試練は渡りに船と言えた。

 

「そういえばリリアって、一体どんなことができるんだ? ステータスは呼び出せるのか?」

 

「呼び出せますよ? ……ステータス」

 

 リリアは空中に自分のステータスを呼び出すとそれをアルハレムに渡して見せる。

 

 

【名前】 リリア

【種族】 サキュバス

【性別】 女

【才能】 5/77

【生命】 470/470

【輝力】 400/400

【筋力】 45

【耐久】 40

【敏捷】 46

【器用】 50

【精神】 41

【特性】 魔女の血統、命と力の移動、輝力節約

【技能】 ☆身体能力強化、☆羽操作、☆尻尾操作、☆透明化、★強化の儀式、★中級調理

【称号】 伝説の淫魔(偽)、アルハレムの従魔

 

 

「これがリリアのステータスか」

 

 アルハレムのステータスと比べると彼が勝っているのは【生命】だけだった。それに戦闘になると輝力によって身体能力を強化できるので、もしアルハレムとリリアが戦うことになれば彼に勝ち目はないだろう。

 

(こうして考えるとリリアが封印されていたのって俺にとっては好都合だったんだな)

 

 リリアが今日まではここに封印されていたからアルハレムは彼女と出会うことができ、封印を解く代償として僕にすることができたのだ。

 

 リリアは決していい顔はしないだろうがそれでもアルハレムは、彼女を封印した二百年前の大国の王子に僅かだが感謝してもいいかなと思うのだった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。