魔物使いのハンドレッドクエスト   作:小狗丸

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第八十話

 次の日。アルハレム達は今日も王都を目指して馬車の旅を続けていた。

 

 今日はアストライアと同じ馬車に親子二人だけで乗っており、アルハレムは相変わらずの馬車の揺れに肩をすくめる。

 

「やっぱり馬車は揺れが激しいな。いくら雨風をしのげるといっても、これだったら馬に乗るか徒歩の方が快適で気楽だよね。母さんもそう思うでしょ?」

 

「……質問に答える前に、お前のその笑顔は一体何だ? 正直気持ち悪いぞ」

 

 笑いながら話しかける息子に母親は辛辣な言葉で返すが、アルハレムは先程から輝くような笑顔のままで顔が仮面にでもなったかのように一瞬たりとも変化させておらず、アストライアの言うこともあながち言い過ぎとは言えなかった。

 

「今朝出発する時は今にも死にそうな顔をしていたのにアリスンと魔女達と離れた途端に元気になって……そんなに昨日は大変だったのか?」

 

「…………………………うん、大変だった。本当に大変だったよ」

 

 アストライアに聞かれてアルハレムは、表情を笑顔から落ち込んだものに変えて疲れきった声で答えた。

 

 昨日は本当に大変な目にあった。

 

 馬車での魔女達の質問をなんとかごまかして街に着いたかと思うと、すぐさま輝力で身体能力を強化したアリスンが突撃してきて魔女達と喧嘩になりかけた。それから後も何回かアリスンと魔女達が騒ぎを起こしそうになる度にアルハレムが体をはって止めて、ようやく宿屋に泊まって一足先に休もうと思ったら、顔を真っ赤にしたアリスンが何やら覚悟を決めた表情でベッドに先回していて、やはりそこでも魔女達との喧嘩が起こりかけて……。

 

 正直な話、昨日大きな騒ぎが起こらなかったのは奇跡的であったと言える。

 

「そ、そうか。大変だったのだな……」

 

「………………………………………うん」

 

 昨日アストライアは、街の町長の屋敷を借りて城塞都市マスタノートで自分の留守を守っているアイリーンとアルテアに手紙を書いていたから知らなかったが、アルハレムの様子から昨日がどれだけ大変だったかを理解した。

 

 それと同時に、自分達の後方を走っているアリスンと魔女達が乗る馬車から異様な雰囲気を感じる理由も理解できた。今頃あの馬車の中では戦いが始まる直前のような張りつめた空気で満ちているのだろう。

 

「……それで話は変わるがアルハレム? お前、神力石は使わないのか?」

 

 落ち込んだ表情となった息子の気をそらそうと、アストライアは話題を変えることにした。

 

「神力石を?」

 

「そうだ。お前はすでに七つの神力石を手に入れたからな。そろそろ使ってみてもいいんじゃないか?」

 

「そういえば……すっかり忘れていたよ」

 

 アルハレムは懐から神力石が入った小さな袋を取り出すと、今思い出したといった顔をした。自身を強くするために冒険者となった彼にとって、使用者に更なる力を与える神力石はとても重要な物であったのだが、ここのところ大きな出来事が立て続けに起こったので忘れていたのだ。

 

「え、と……。使ってもいいのかな?」

 

「当然だ。神力石はクエストを達成した冒険者が女神イアスから与えられた報酬で、その使用は例え王族でも制限はできん」

 

「それじゃあまず試しに一つ……」

 

 アルハレムは神力石の一つを飲み込んでみる。すると彼の頭の中に「ピロロン♪」とステータスが更新されたのを報せる音が聞こえた。

 

「……うん。どうやら無事にステータスが更新されたみたいだ。ステータス」

 

 

【名前】 アルハレム・マスタノート

【種族】 ヒューマン

【性別】 男

【才能】 4/25

【生命】 1260/1260

【輝力】 0/0

【筋力】 29

【耐久】 30

【敏捷】 34

【器用】 32

【精神】 33

【特性】 冒険者の資質、超人的体力、力の模倣

【技能】 ☆身体能力強化(偽)、☆疾風鞭、☆轟風鞭、★中級剣術、★中級弓術、★中級馬術、★初級泳術、★契約の儀式、★初級鞭術

【称号】 家族に愛された貴族、冒険者(魔物使い)、サキュバスの主、ラミアの主、グールの主、猫又の主、霊亀の主

 

 

「どうだ?」

 

「才能の上限が上がっていて……あと、特性に『力の模倣』っていう見覚えのない文字が記されてる」

 

 アストライアの質問にアルハレムはステータス画面を見ながら答える。

 

 神力石はまず使用者の才能の上限を上昇させてから、筋力や耐久などの身体能力の数値を上昇させるか新たな特性や技能を追加する。

 

 どうやらアルハレムは神力石を使用したことで新たな特性を手に入れたようであった。


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