勇者推薦の話をアストライアされた日から三日後。アルハレム達は王都に向かっている最中だった。
城塞都市マスタロードから王都まで馬に乗っても十日程かかる。アストライアは今回の旅のために長距離用の馬車を二台用意し、アルハレムは仲間の魔女達と共にその内の一台に乗り込んでいた。
「……」
馬車の中でアルハレムは何やら落ち着かない様子だった。
頬を少し赤くして、視線を何度も右へ左へと動かし、何かを言おうとするが結局は何も言わないアルハレムを変に思ったのかリリアが訊ねる。
「あの、アルハレム様? 先程から様子がおかしいようですが、体調でも悪いのですか?」
「え? い、いや、別に体調は悪くはないんだけど……その、な……」
「ではやっぱり勇者の件でござるか?」
言葉を濁すアルハレムに今度はツクモが話しかける。
「アルハレム殿。まだ勇者に推薦されるって段階でござるし、今からそんなに緊張しなくてもいいと思うでござるよ」
「そ、そうですよね」
こちらの緊張をほぐそうと話してくるツクモにアルハレムは頬が赤いままで答える。
確かに勇者に推薦される件で緊張している点はある。だがアルハレムが落ち着かない理由は別にあった。
(やっぱり揺れてるな……胸が……)
馬車といえば快適な旅のイメージがあるが、馬車の中は意外に揺れる。馬車が行く道は舗装されていない道がほとんどで、そこ通っている間はずっと馬車の中は大きく揺れて、その振動でリリア達魔女五人の豊かな乳房もふるふると揺れていた。
もうすでにここにいる五人の魔女達と何度も肌を重ねたアルハレムだったが、だからこそ逆にこうした無防備な彼女達の姿に意識してしまうのだった。
「それとも……緊張している理由は『前の馬車』でござるか?」
自分達が知らずにアルハレムを誘惑していることに気づかないツクモ(絶賛乳揺れ中)が、からかうような顔で自分の主に言う。
アルハレム達が乗っている馬車の前を走っているもう一台の馬車には、アストライアと一緒にアリスンが乗っていた。勇者の推薦のためにアルハレム達が王都に行くと言う話を聞くやいなや自分も王都に行くと言い出し、強引に今回の旅についてきたのだ。
「あー、そういえばアイツのこともあったな……」
どちらの馬車に誰が乗るか決めるときに自分と同じ馬車に乗ると散々駄々をこねていたアリスン顔を思い出し、アルハレムは馬車から降りた妹がどんな行動を取るか考えると頭が痛くなった。
「……? 悩み、アリ、スン、じゃな、い、の? だった、ら、何?」
「………?」
「やっぱり勇者になることで緊張しているのですか?」
ツクモに言われて初めてアリスンのことを思い出したといった感じのアルハレムに、ルルとレイアにヒスイが首を傾げる。
「そういえばギルシュの勇者は旦那様だけなのですか?」
「いや。ギルシュにはすでに一人、勇者がいるよ」
アルハレムは首を横に振ってヒスイに答えると、ギルシュにすでに一人いる勇者のことを話す。
「ローレン様と言って、ギルシュの第三皇子だ。人当たりが良くて評判はそれなりにいいんだけど、十人以上の戦乙女達を従者にして連れ歩いていることから『好色皇子』とか『ハーレム勇者』と呼ばれているな」