「か、母さん……今来たよ……」
「ああ、来たのかお前達……って、アルハレム!? お前、一体どうした!?」
昼頃。アルハレムとリリア達魔女五人はアストライアに呼ばれて彼女の書斎にやって来たのだが、マスタノート辺境伯は自分の息子の姿を見て思わず驚きの声をあげた。
書斎を訪れたアルハレムの姿は全身に傷を負ったまさに満身創痍といった感じで、その顔色はリリア達五人の魔女に生命力を吸い尽くされた朝よりも悪くなっており、やつれているように見えた。
「これは……その……。ちょっと『色々』あって……」
アルハレムは自分の姿に驚くアストライアに苦笑を浮かべながら言葉を濁して答える。
そう、朝からここに来るまで本当に色々な災難があった。
今朝、何とかリリア達の修羅場を回避して事なきを得たかと思ったアルハレムだったが、彼がツクモを仲間にしてそのまま男女の関係になったことがすでに城中に知れ渡っていたようで、部屋を出た途端に様々な出来事が起こった。顔を真っ赤にしたアリスンに詰め寄られ、アイリーンやアルテアを初めとする城中の人間に呆れや嫉妬、あるいは軽蔑の目で見られ、最後には嫉妬のあまり発狂したライブに真剣で切りつけられたのだ。
この数時間で起こった災難の数々は、先日の魔物を生み出す森での戦いよりも辛かったのではないかとアルハレムは思う。
「……色々、か」
「はい。色々ありました」
「……そうか」
アストライアはアルハレムの顔色から自分の息子に何があったかを想像すると、深くは聞かずに早速本題に入ることにした。
「……まあいい。とにかくお前達を呼んだ件なのだが単刀直入に言おう。アルハレム、そしてアルハレムに従う五人の魔女達よ。お前達には近日中に私と一緒に王都までついてきてもらう。反論は認めん」
「俺達が王都に? 一体どうして?」
あまりに突然な母親の言葉にアルハレムが聞くと、アストライアは一つ頷いてから彼らを王都へと連れていく理由を口にする。
「お前達を王都に連れていく理由……それはアルハレム、お前を我がギルシュの『勇者』として推薦するためだ。その為の推薦文はすでに王都へと送っている」
「………………………………………………………え?」
アルハレムは一瞬、アストライアが何を言ったのか理解できなかった。それほどに彼女が口にした言葉はギルシュの人間にとって衝撃的であったのだ。
そして僅かな間をおいて魔物使いの青年は今言われた言葉が嘘や冗談でないこと理解し、次に「勇者」という言葉が何を意味するのかを思い出す。
「はいっ!? お、俺が『勇者』に!?」
母親に自分を勇者に推薦すると言われたアルハレムは思わず驚きの声をあげたのだった。