魔物使いのハンドレッドクエスト   作:小狗丸

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第七十二話

「ちょっ!? 今度はなんのつもりですか、ツクモさん? 何でヒスイの服を脱がすんですか?」

 

 アルハレムはヒスイの裸体を見ないようにとっさに顔を横にそらすと、彼女の服を脱がせたツクモに抗議するが猫又の魔女はそれに答えず、代わりに霊亀の魔女が口を開いた。

 

「旦那様……どうして見てくれないのですか? 私の体には皆さんのような魅力はありませんか?」

 

「い、いや! そんなことはないって!」

 

 自分の体を隠そうとせずに悲しそうな表情を浮かべるヒスイにアルハレムは即答する。

 

 ヒスイが魅力的なのは間違いない。

 

 ヒスイの外見は二十代後半から三十代くらいの儚げな感じの女性で、外見が十代後半から二十代くらいのリリア達とは違った魅力があった。更に彼女の背中には亀の甲羅のような甲板と鱗があって、それがツクモの故郷がある地域に伝わる肌に刻む紋様「イレズミ」のように見えて、妖しい色気を見せていた。

 

「よかったでござるな、ヒスイ殿。これで一緒にアルハレム殿に愛してもらえるでござるな」

 

「そ、そうですね……」

 

 ツクモに声をかけられてヒスイは照れながらも嬉しそうに頷く。

 

「待って! 待ってください、ツクモさん。それにヒスイも。どうしていきなりそうなるんだ?」

 

 ツクモが言った「愛してもらえる」の意味が伝わったアルハレムが聞くと、猫又の魔女は当たり前のことを説明するように答える。

 

「今更何を言っているでござるか、アルハレム殿? そんなの魔女の本能を満たしてもらうために決まっているでござろう。魔女は子供を産む本能が非常に強いことはアルハレム殿が一番知っているはずでござるよ? ……ほら、ヒスイ殿を見るでござる」

 

「旦那様……」

 

 ツクモの言葉にアルハレムがヒスイを見ると、霊亀の魔女が熱を帯びた瞳を自分に向けているのが分かった。

 

「アルハレム殿。どうかヒスイ殿の……それとついででも構わぬでござるからツクモさんの本能を満たして、この体に貴方の所有物だという証を刻んでほしいでござる。………というより、据え膳食わぬは男の恥でござるよ♪」

 

「……」

 

 最後の台詞を言う猫又の魔女の笑みはまるで男を寝床に誘い込む夢魔のように妖艶で、そこに何かを期待するような霊亀の魔女の視線が加わると、断れる男はいなかった。

 

 ☆★☆★

 

「はぁ……はぁ……」

 

 数時間後。ツクモはアルハレムのベッドの上で荒い息を吐いていた。

 

「ま、まさか、これほどとは……。足が震えてまともに立てんでござるよ……」

 

 体がまるで火のように熱くなって全身を汗で濡らしたツクモが隣を見ると、そこには疲れているが満ち足りた寝顔をしたアルハレムとヒスイが眠っていた。つい先程まで三人で肌を重ねていた疲れで熟睡しており、アルハレムもヒスイも明日の朝まで起きないだろう。

 

 固有特性の効果があるとはいえ、アルハレムが魔女の自分を腰砕けにするとは完全に予想外だったツクモだが、お陰でリリア達三人の魔女達が彼に執心している理由を理解できた。

 

 なるほど。確かにアルハレムは魔女にとって理想的な主だろう。

 

 魔女に対して何の偏見も持たず普通の女性として扱い、戦いでも「夜」でも魔女を従えられる強さを持つ男なんて、ツクモはアルハレム以外見たことはない。

 

 将来性はあるのは初めて会ったときから感じていたが、まさかこれ程の男に成長するとは思わなかった。もしこうなると分かっていたら、すでに手込めにしていたのにと軽く後悔しながらツクモは苦笑する。

 

「でももう仲間にしてもらったので結果は同じでござるな。……これから改めて宜しくお願いするでござるよ、アルハレム殿♪」

 

 ツクモは微笑みを浮かべて眠っているアルハレムに口づけをすると、何とかベッドから降りて立ち上がり、部屋を後にしたのだった。


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