「……こんにちわ、ツクモさん。こうして顔を会わせるのは初めてですね」
ツクモの声に答えるかのように、光る木に張り付けられた霊亀はゆっくりと閉ざしていた目を開くと猫又の魔女に微笑んだ。
「え? ツクモさんのことを知っているでござるか?」
「はい。この森と一つになっている私はここで起こったことの全てを知っています。当然、百年以上もの間、ツクモさん達猫又の皆さんが私をこの森から助けてくれようとしたことも。……ようやく会えましたね。本当にありがとうございます」
霊亀は微笑みながらツクモに礼を述べると、次に彼女の後ろにいるアルハレム達へと視線を向けた。
「皆さんも助けに来てくれてありがとうございます。そしてすみませんでした。助けに来てくれた貴方達に魔物を差し向けることになってしまって……」
「いえ、それはエルフ族が残したダンジョンの防衛機能のせいで、貴女の責任じゃないですって。それよりも早くその拘束を解きましょう。ルル、拘束を解く方法を調べてくれ」
ここに来るまでに現れた魔物について謝罪しようとした霊亀だったが、アルハレムはそれを止めるとルルに彼女を解放する方法を調べるように言う。
霊亀は両手両足を植物の蔦で縛られて木に張り付けられていたが、ただの植物の蔦で魔女である彼女を拘束できるはずもなく、神殿の扉同様に解放するには何らかの手順がいるのは明らかだった。
「分かっ、た。……。………っ!」
ルルは霊亀が拘束されている木に触れて記憶を読み取るが、しばらくすると表情を僅かに苦いものにして木から離れた。
「? ルル、どうしたでござるか?」
「………拘束、解く、方法、ない。見つから、なかった」
『ええっ!?』
「……?」
視線をそらしてツクモに答えるルルに、この場にいるほとんど人が驚きと絶望の声を上げるが、アルハレムだけがグールの魔女の態度に違和感を覚えた。
「……なぁ、ルル?」
「……!? ……な、に?」
アルハレムが声をかけるとルルは一瞬だけ体を硬直させてから返事をする。
「本当に霊亀の拘束を解く方法はないのか?」
「………う、ん」
「本当に?」
「…………………………ごめん、なさい」
アルハレムに質問されてルルはしばらく黙った後に自分の主に謝る。それは先程の言葉が嘘で、霊亀を解放する方法があることを意味していた。
「ちょっとルル! 何故嘘なんかつくのですか!? 霊亀を解放する方法に何か問題でもあったのですか?」
「………」
リリアとレイアから批難の視線を受けてルルは渋々と霊亀を解放する方法を口にする。
「……あの、霊亀、は、エルフ、族の、神術、で、ここに、縛られ、ている。解放、する、方法、は、別の、神術、で、霊亀、の、魂を、この森、から、別の、人に、繋げ、る」
「別の神術? 霊亀の魂を別の人に繋げる? ……それってまさか」
ルルの説明を聞いてリリアは霊亀を解放する方法に思い当たり、グールの魔女はサキュバスの予想を肯定するように頷く。
「そ、う。契約の、儀式。我が夫、が、霊亀、を、仲間、に、すれば、霊亀、解放、される」
「………! ………!」
霊亀を解放する方法が、アルハレムが彼女を仲間にすることだと聞くや否やレイアは自分の主の服を引っ張って外に連れ出そうとする。
「レイア? 待て、落ち着けって。ルル。他に霊亀を解放する方法はないのか?」
「……な、い」
「あちゃ~。だからルルは先程嘘をついたのですね」
「……」
「あらら」
「むー……」
アルハレムが聞いてもルルは首を横に振るだけで、それにリリアは納得したように苦笑を浮かべる。これにはリリアだけでなく、アイリーンにアルテアとアリスンも複雑な表情を浮かべていた。
「にゃ~。まさか霊亀を解放する方法がそんな内容だったとは思わんかったでござる……。ということは今回、魔物があんなに多く現れたのは……」
「そ、う。霊亀、を、助け、られる、我が夫、を、追い、出す、ため」
ツクモの言葉にルルが頷く。
この森に入って大量の魔物が出現した理由。それはダンジョンの防衛機能が、核である霊亀を助け出せる魔物使いのアルハレムの存在を感知して、最優先で排除すべきと判断したからだった。