魔物使いのハンドレッドクエスト   作:小狗丸

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第六十六話

「あああ、アルハレム様! アルハレム様! アルハレム様ぁ! 申し訳ありません! ダンジョンの妨害があったとはいえ、アルハレム様と離れてしまうばかりか危険にさらしてしまうだなんて! このリリア、どの様な処罰も受けます!」

 

「………!」

 

「我が夫! 無事、だった? はぐれ、て、ごめんな、さい」

 

「お兄様! お兄様! お兄様ぁ! もう怪我は大丈夫なの!? まだ痛むところはない!?」

 

 エルフ族の廃墟に現れた石の巨人が全て倒されるとリリア、レイア、ルル、アリスンの四人は治療を終えて回復したアルハレムに突撃してきた。

 

「いっ!? お前達、ちょっと待……デゴス!」

 

 四人の魔女と戦乙女の突撃を受けて吹き飛ばされるアルハレムを見て、アイリーンとアルテアが苦笑を浮かべる。

 

「まったく何やっているんだ、アイツらは? いくらアルハレムが敵に殴られたからといっても慌てすぎだ」

 

「本当ね。アルハレムったらまた怪我しちゃったし、仕方がない子達ね」

 

「それをアイリーンとアルテアが言うでござるか?」

 

『……』

 

 呆れたように話すアイリーンとアルテアをツクモがジト目で見ながら言うと、双子の姉妹は二人揃って顔をそらした。どうやら二人とも、アルハレムが石の巨人に攻撃された時、自分達がどれだけ暴走したか自覚があるらしい。

 

「とにかく、今は一刻も早くルルに神殿の扉を開ける方法を調べてもらうでござる」

 

「ああ、分かっている」

 

「そうね」

 

 ツクモの言葉にアイリーンとアルテアが頷くと、三人はまだアルハレムの周りで騒いでいるリリア達四人を止めるべく、彼女達の元へと歩いていった。

 

 ☆★☆★

 

「それじゃあ頼むぞ、ルル」

 

「任せ、て」

 

 ルルはアルハレムに答えると神殿の扉に手を当ててグールの種族特性「知識の遺産」を発動させる。

 

「……」

 

「時間がかかりそうだね」

 

「それはそうだろ。なんたって百年以上のここの記憶を見ないといけないんだから」

 

 神殿の扉に手を当てたまま目を閉じて集中するルルを見てライブが言うとアルハレムが答える。

 

 物から知識を得るのがどんな感じなのかはグールにしか分からないが、過去の出来事を事細かに記した分厚い歴史書を開いて、必要な情報が書かれた一文を探すようなものではないかと予想する。

 

「でもこういう封印とか結界って、決まった血筋の人しか解けないって話がよくあるじゃないか? その場合はどうするんだろうな?」

 

「ツクモさんもその点が気になっているでござる」

 

 ライブの疑問にいつの間にか横に立っていたツクモが頷く。

 

「ライブが言った通り、決められた血筋の者や個人を封印や結界の鍵とするのは最もよくある例なのでござる。しかしもしこの神殿の扉を閉ざす封印がそれなのだとしたら、封印を解ける血筋とは間違いなくここで暮らしていた滅んだエルフ族となるでござるよ。その場合、一体どうして開けたものか……」

 

「……大丈、夫。この、扉の、封印、それ、違う」

 

 顎に手を当てて考えるツクモにルルが話しかける。

 

「ルル? それは違うって、扉を開ける方法が分かったでござるか?」

 

「そう。この、扉、エルフ、族、じゃ、なくて、も、開けれ、る」

 

「本当でござるか? それで? どうすれば開くでござる?」

 

「エルフ、族、神殿の、周り、に、十の、結界、の、要、置いた。それを、エルフ、族、置いた、逆の、順番、で、破壊、すれば、扉、開く」

 

「……結界の要を決められた順に破壊すれば解ける封印でござったか」

 

 ルルから封印を解く方法を聞いたツクモは苦い顔になって呟く。

 

 今聞いた方法は、決められた血筋の者を鍵とする方法の次くらいによくある封印の解き方で、当然猫又の一族もその可能性は考えたことがあった。しかしこの百年もの間、ツクモ達を含む猫又の一族は結界の要を見つけることができなかった。

 

 ツクモがルルから封印の解き方を聞いて苦い顔となったのは、そんな自分と過去の猫又達を恥じたからだ。

 

「それでルル? その結界の要は一体どんなもので、どこにあるんだ?」

 

「エルフ、族、が、結界、の、要、に、使った、のは、木の、苗木。それ、で、エルフ、族、が、最後、植えた、つまり、私達、が、最初、に、壊す、苗木、あそこ、ある」

 

 ルルはアルハレムの質問に答えると、最初に壊す結界の要である苗木がある方向を指差す。

 

 グールの魔女が指差した先にあったのは……無数に生えている木の群れだった。

 

「…………………………あー、そうか。そういうことか」

 

 ルルが指差した先にあった無数の木をアルハレムは、しばらく呆然とした後に納得した。

 

 考えてみればエルフ族が苗木を植えたのは百年以上も昔のことだ。それだけの時間があれば苗木も立派な木に育つだろう。

 

「ええっと、ルル? あれのどれが結界の要の木なんだ?」

 

「……………さ、あ?」

 

「にゃ~。あれは流石のツクモさん達、猫又でも分からんでござるよ」

 

 駄目元でアルハレムが聞くと、やはりというかルルは首を傾げて分からないと答え、ツクモが疲れたような笑みを浮かべた。


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