魔物使いのハンドレッドクエスト   作:小狗丸

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第六十二話

「うわあああっ!? どけぇ! どけどけどけどけぇ! 私の前から退きなさいよぉ!」

 

 アルハレム達がダンジョンの奥を目指して出発してからしばらくした後、ダンジョンの別の場所で女性の叫び声が響き渡った。

 

「コノォ! コノコノコノォ!」

 

 叫んでいたのはアリスンだった。

 

 アリスンは目に涙をためた半狂乱の表情となって、輝力で身体能力を強化した状態でただひたすら壁のように生え並ぶ大樹の列にハルバードを振るっていた。

 

 しかしいくらハルバードの刃で大樹に傷をつけて植物を切り捨てても、大樹の傷は瞬く間に回復して植物もすぐに別の生えてくる。

 

「ふざけんじゃないわよ! 何で! 何で植物ごときが私の邪魔をするのよ!? 通せ! さっさと私を向こう側に! お兄様の所に通しなさいよ! うわあああっ!?」

 

 叫びながらもハルバードを振るう手を緩めない、いや、むしろ更に激しく振るうアリスンをアイリーン、アルテア、リリア、レイア、ルルの五人が見ていた。

 

 例の移動する大樹に弾き飛ばされた後、アリスン達六人は少しの間気絶したらしく、目を覚ませば自分達しかいないことに気づいたアリスンは、今のように何とかアルハレムがいるであろう壁の向こう側へ行こうとしているのだった。

 

「アリスン。そのくらいにしておけ。いくらやってもその草木の壁を破壊するのは不可能だ」

 

「そうよ、アリスン。それ以上やったら、貴女の輝力が持たないわ」

 

 アイリーンとアルテアが止めるように言うがアリスンは聞く耳を持たずにハルバードを振るい続ける。

 

「アリスンさん。お姉さん達の言うことは聞いた方がいいですよ? アルハレム様が心配なのは分かりますが、それはここにいる皆が同じです」

 

「………」

 

「リリア、の、言う、通り。だから、これ以上、止める」

 

「うるっさいわよ! お兄様の危機についていない役立たず共が私に指図するんじゃないわよ!」

 

 アイリーンとアルテアの次にリリア、レイア、ルルがアリスンに話しかけると、今度は今にも斬りかかりそうな表情で怒鳴られた。

 

「……何だか私達にはキツくないですか?」

 

「………」

 

「ルル達。役、立た、ず……」

 

「皆、ごめんなさい。あの子、基本的に口が悪いから」

 

 アリスンの言葉に苦い顔をするリリア達にアルテアが代わりに謝る。

 

「全くコイツは……アルハレムのことになると周りが見えなくなるのだから。……え? お母様!?」

 

 ため息を吐くアイリーンだったが、突然誰かに話しかけられたように振り返ると虚空に視線を向ける。どうやら森の外で待機しているアストライアが自分の意思を伝える固有特性を使って話しかけているようだ。

 

「ええ、はい。え? そうなのです? ……はい。私達もそうします。……おい、お前達」

 

 虚空を見ながら森の外にいるアストライアと会話していたアイリーンは、会話を終えると全員に声をかける。

 

「今、お母様から連絡が来た。どうやらアルハレム達はダンジョンの奥へと向かっているみたいだ。私達も奥に向かってアルハレム達と合流……」

 

「っ!? お兄様!」

 

 アイリーンの言葉が終わらないうちにアリスンは一本道のダンジョンの奥へと走り出す。

 

「なっ!? おい、アリスン!」

 

「一人だと危ないわよ!」

 

「私達も行きましょう」

 

「………」

 

「一人、で、突っ走り、すぎ」

 

 風のように駆け出したアリスンの後を他の五人も追う。

 

「アリスンさん! いくらなんでも急ぎすぎです! 少しは私達に合わせてください」

 

 輝力で身体能力を強化したリリアが速度を上げてアリスンの隣に並んで話しかけると、貴族の少女は横目で鋭い視線をサキュバスに向ける。

 

「うるさい。私に指図するんじゃないわよ。お兄様が危険にさらされているかも知れないのにゆっくりできるわけないでしょうが?」

 

「それはそうですが……って、あら? どうやら他の皆も来たみたいですね」

 

 アリスンの言葉に答えたリリアは、自分達の後ろで輝力で身体能力強化をしたアイリーン達が追ってきているのを見た。

 

「……少しはお兄様の役に立つみたいだけど、私はまだ貴女達を認めた訳じゃないからね。認めてほしかったら私より先にお兄様を助けることね」

 

「別に貴女に認められなくても構わないのですが……アルハレム様をお守りすることは私達の役目です」

 

「………」

 

「言わ、れる、までも、ない」

 

 アルハレムを守りたいという気持ちは同じ。リリア、レイア、ルルはそれぞれアリスンに頷いて返した。

 

 それから六人はひたすら一本道のダンジョンを走り続けた。一本道といっても曲がりくねった箇所がいくつもあってそれなりの距離はあったが、身体能力強化をした六人は短時間でダンジョンの森を抜けた。

 

「よし! 森を抜けました! 後はアルハレム様を……え!?」

 

『…………………………!?』

 

 森を抜けたリリア達は丁度その瞬間、信じられない……信じたくない光景を目にした。

 

 それは石の巨人に殴り飛ばされ、宙を舞うアルハレムの姿だった。


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