輝力を使って身体能力を強化したアルハレムの姿にこの場にいるほとんどが言葉を失った。
輝力を使えるのは戦乙女と呼ばれる女性だけ、という世界の常識を破り、体から輝力の青白い光を放つアルハレムを皆が信じられないといった表情で見ていた。
「あ、アル……? その光は輝力でござるか?」
「身体能力の強化、だと?」
「戦乙女でないアルハレムがどうして……?」
「お、お兄様?」
「どういうことだよ、アル?」
ツクモ、アイリーン、アルテア、アリスン、ライブの順番で、アルハレムの家族と友人が言葉を漏らす。だがそうしている間にも新たに現れた敵、土と岩の人形はこちらに向かってきており、それを見たアルハレムは家族と友人の質問に答えるより先に敵に向かって駆け出した。
「ステータス」
風のような速度で走りながらアルハレムはステータス画面を呼び出すと、そこに記された情報を横目で見る。
【名前】 アルハレム・マスタノート
【種族】 ヒューマン
【性別】 男
【才能】 4/20
【生命】 1260/1260
【輝力】 98/0
【筋力】 29(290)
【耐久】 30(300)
【敏捷】 34(340)
【器用】 32
【精神】 33
【特性】 冒険者の資質、超人的体力
【技能】 ☆身体能力強化(偽)、☆疾風鞭、☆轟風鞭、★中級剣術、★中級弓術、★中級馬術、★初級泳術、★契約の儀式、★初級鞭術
【称号】 家族に愛された貴族、冒険者(魔物使い)、サキュバスの主、ラミアの主、グールの主
(よし。身体能力の強化はしっかりできているな)
ステータス画面の筋力、耐久、敏捷の欄に新たな数値、身体能力強化後の数値が現れたのを確認してアルハレムは内心で頷いた。
この一ヶ月の間、アルハレムはリリアに協力してもらって身体能力強化を発動させる訓練をしていた。最初は上手く発動できなかったが、今ではリリアから輝力を貰えば完全に自分の意志で発動できるようになり、その証拠にステータス画面の技能の欄には「身体能力強化(偽)」の文字が記されていた。
「……」
「おっと」
土と岩の人形がその巨大な右腕を振り上げてアルハレムに叩きつけようとするが、アルハレムは横に飛ぶと攻撃を避けた。
「力は強いけど動きは単調か。ツクモさんが言った通りだな」
攻撃を避けたアルハレムは土と岩の人形から離れた位置に立つと腰に差したロッドを構える。
「この一ヶ月で覚えたのは身体能力強化だけじゃない。……疾風鞭!」
アルハレムがロッドを横凪ぎに振るうと、ロッドから風の刃が放たれた。一ヶ月間でルルの指導から覚えた技能「疾風斬」をロッドで再現した技能だ。
ロッドから放たれた風の刃は土と岩の人形の足を切断し、支えを失った巨体は地面に転倒する。……だが、
「……」
「足が再生した?」
足を切断されて転倒した土と岩の人形だったが、すぐに地面の土を集めて新しい足を作るとゆっくりとした動きで起き上がる。
「植物の人形と同じってことか」
「そうでござる。そいつも核を破壊しない限り何度でも再生するのでござる。手伝うでござるか?」
「いいえ、大丈夫です。……もう一つの技能を使います」
アルハレムがツクモに首を横に振って答えると、彼の持つロッドが渦巻く風を纏いだす。ルルから教わって得た技能「轟風剣」をロッドで再現した技能「轟風鞭」である。
「核を破壊しないといけないなら、全身を破壊してそれを見つけだす!」
「……」
「脆い!」
突撃するアルハレムを土と岩の人形は腕を振るって迎え撃とうとするが、風を纏ったロッドはいとも容易く土と岩でできた巨大な腕を砕く。
(轟風鞭は消費する輝力が多い。輝力が尽きる前に早めに勝負をつける!)
アルハレムは輝力で強化した速度を活かして土と岩の人形を翻弄しながら風を纏ったロッドを振るい敵の巨体を削っていく。
『………………………』
男の身でありながら戦乙女のように輝力を使い、アイリーンやアリスンにも勝るとも劣らない戦いぶりを発揮するアルハレムの姿を、兵士達は驚きのあまり声を失ったまま見ていた。
あの男は本当にアルハレムなのか?
男のはずの彼が何故輝力を使うことができるのか?
兵士達の脳裏にそんな疑問が延々と巡っている間に、アルハレムと土と岩の人形との戦いは終わりを迎えようとしていた。
「っ! 見つけた!」
アルハレムのロッドが土と岩の人形の頭部を破壊した時、破壊された頭部から光を放つ拳大の大きさの石が出て宙を舞った。光を放つ石が人形の核だと直感したアルハレムは、ロッドを振るって核である石を破壊する。
「……!」
核を破壊された土と岩の人形は、声ならぬ悲鳴をあげるとただの土と岩に戻り、その巨体を崩壊させた。それによって人形がいた辺りは、大量の土ぼこりがたって周囲から様子が見えなくなってしまうが、それもすぐに風に吹き飛ばされてしまう。
そして土ぼこりが風に吹かれてなくなったあとには、全身から青白い輝力の光を放つアルハレムの姿だけがあった。