魔物使いのハンドレッドクエスト   作:小狗丸

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第五十七話

 話している間にもダンジョンは防衛用の人工の魔物、植物の人形を作り出していき、その数はすでに軽く五十を越えている。

 

 更に悪いことに、今アルハレム達がいる地形は左右が大樹の壁に阻まれた一本道の地形で、前後は植物の人形に挟まれていた。

 

 数も地の利も植物の人形達の方が圧倒的に有利でありながら、アルハレム達が率いる兵士達の表情は全員緊張はしていても、誰一人たりとも諦めや恐れを見せていなかった。

 

 何故ならここにはマスタノート家の時代を担う三人の優秀な戦乙女達がいて、兵士達は彼女達がこの程度の兵力差を幾度となく退けてきたのを知っているからだ。

 

「前方の敵は私が、後方の敵はアリスンが戦う! 兵士達はアルテアを中心に円陣を組め! 他は兵士達の援護をしろ!」

 

 アイリーンが周囲に指示を飛ばすと兵士達は素早く指示通りにアルテアを中心に円陣を組み、アルハレム達は円陣の外側に立って構える。それを確認するとアイリーンとアリスンは輝力で身体能力を強化して、彼女達の体が青白い光に包まれる。

 

「行くぞ、アリスン!」

 

「ええ! お姉様!」

 

 アイリーンとアリスンはそれぞれ風のような速さで前方と後方にいる植物の人形達に向かって突撃していく。

 

「はあ! せい!」

 

 アイリーンが右手に持つ剣を振るい植物の人形の一体を一撃で木の葉と草の残骸にすると、続けて左手に持つ剣を振るって残骸の中に混じっていた小さな木の実を打ち砕く。

 

 植物の人形の戦闘力はそれほど高くなく、戦乙女でなくとも訓練を積んだ兵士なら充分対応できるレベルである。しかし植物の人形は常に複数で行動する上に、体のどこかにある「核」を破壊しない限り何度でも再生するのだ。

 

 アイリーンが今打ち砕いた木の実こそが植物の人形の核であり、核を破壊された人形は木の葉と草の残骸となったまま二度と再生しようとしなかった。

 

「まだまだぁ!」

 

 気合いの声を放つと共に別の植物の人形にと斬りかかるアイリーン。

 

 片方の剣で植物の人形の体を散らし、もう片方の剣で体を散らされたことによって外に出た核を破壊する。

 

 当然、植物の人形達もアイリーンに木製の武器を振るって攻撃するのだが、輝力で身体能力を強化した戦乙女にはかすりもしない。一体の植物の人形が攻撃しようとする間に二体、三体の植物の人形が双剣に剣撃によって木の葉と草の残骸にされていく。

 

 二振りの剣を完全に使いこなし、次々と敵を反撃すら許さずに切り捨てていくその姿は、まさに「双剣の戦姫」という異名で呼ばれるのに相応しかった。

 

 そしてアイリーンが前方の敵を次々と切り捨てているその時、アリスンが後方にいた植物の人形達に攻撃を仕掛けようとしていた。

 

「いっくわよおおっ!」

 

 植物の人形達は手に持つ木製の武器を構えて迎え撃つ体勢をとるのだが、アリスンはそれに恐れることなく突撃するとハルバードを振るって一度に数体の植物の人形を破壊する。

 

『……』

 

 しかし今の一撃では核を破壊できていなかったみたいで、体を破壊された植物の人形はすぐに再生をした。

 

「ふふん♪ 何回でも直るんだったら、何回でも壊してあげる!」

 

 アリスンは体を再生した植物の人形達を見て獰猛な笑みを浮かべると、体を包む輝力の青白い光を強くし、植物の人形達の中に飛び込んでハルバードを振り回して暴れまわる。

 

 輝力で強化された身体能力を活かして敵の攻撃を避けて、偶然ハルバードの刃が核に当たって破壊できるまで、宣言通り何度でも植物の人形を壊していくアリスン。その姿はまるで積み木を崩したり、砂場で造った城を壊して遊ぶ子供そのものであり、彼女が「戦場で遊ぶ悪童」という異名で呼ばれる理由もこの姿にあった。

 

「相変わらず強いよな。というか以前より強くなっていないか? アイリーンさんとアリスンちゃん」

 

「ああ、本当にな。……俺達、いらなくないか?」

 

 少数だが向かってくる植物の人形の相手をしながらライブとアルハレムが話すが、二人とも苦笑を浮かべていた。

 

 事実、アルハレム達を挟み撃ちする植物の人形達のほとんどはアイリーンとアリスンだけで次々と破壊されていって、他の面々のやることといえば二人がたまにうち漏らした植物の人形の相手をすることぐらいだった。


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