魔物を生み出す森を攻略するための準備は滞りなく進んでいった。
城塞都市マスタロードは元々、魔物の群れや他国の軍隊の進攻を阻止することを目的に造られた都市なので、有事になればすぐさま兵を出せる状態を保っており、兵や装備等を整える作業はわりとすぐに済んだ。
集めた兵達の中から森の深部へと突入する精鋭を選び抜き、一度自分の領地に戻って私兵を引き連れてきたライブと合流し、ツクモの情報を元に森を攻略する作戦を練っているうちに、アストライアが決めた一ヶ月という準備期間は過ぎていった。
☆★☆★
「うう……。もう朝か……?」
「おはようございます♪ アルハレム様♪」
「………♪」
「おは、よう。我が夫♪」
窓から差し込んでくる朝日の光にアルハレムが目を覚ますとリリア、レイア、ルルの三人が満面の笑みで挨拶する。
「……ああ。おはよう、三人とも」
朝起きたばかりなのに疲れきった声で挨拶を返すアルハレム。
ベッドの上の四人は皆、衣服の類いを身に付けておらず素肌を密着させているのだが、三人の魔女達は肌に艶が出ていて活力に満ちているのに対して、魔物使いの青年はやつれて今にも倒れそうな感じであった。
「あら? アルハレム様、まだ寝足りないのですか? 大分お疲れのようですが?」
「……」
【名前】 アルハレム・マスタノート
【種族】 ヒューマン
【性別】 男
【才能】 4/20
【生命】 60/1260
【輝力】 0/0
【筋力】 29
【耐久】 30
【敏捷】 34
【器用】 32
【精神】 33
【特性】 冒険者の資質、超人的体力
【技能】 ☆身体能力強化(偽)、☆疾風鞭、☆轟風鞭、★中級剣術、★中級弓術、★中級馬術、★初級泳術、★契約の儀式、★初級鞭術
【称号】 家族に愛された貴族、冒険者(魔物使い)、サキュバスの主、ラミアの主、グールの主
アルハレムは無言で自分のステータス画面を呼び出して仲間達に突きつける。
「………お前らな。毎日毎日、飽きもせずに俺から搾り取りやがって……懲りない俺も悪いんだがいい加減にしろよ」
「「「………」」」
苦虫を大量に噛み潰したような顔で言うアルハレムに、リリア達は揃って明後日の方向を見て視線をそらした。
リリアとレイアにルルの三人は、少し前に一人の魔女がアルハレムに迫ったのを見てから、以前よりも積極的に自分達の主に接触するようになっていた。
当然、「夜」でも以前よりも積極的に接触……というより肌を重ねてきて、最近では家族だけでなくマスタノート家の使用人達も何かを諦めたような生暖かい目で見てきて、そんな生暖かい視線にアルハレムがこっそり心を傷つけているのは秘密である。
「にゃはは♪ アルってば今朝もモテモテみたいでござるね♪」
「「「……ッ!?」」」
突然窓から聞こえてきた声にリリア達三人の魔女は即座に反応すると、アルハレムを庇うように取り囲んでから声がした窓を見る。
「はーい♪ おはようでござる、皆。アル、よく眠れたでござるか?」
開かれた窓際に腰を掛けた猫又の魔女、ツクモが手を振りながら挨拶をすると、リリア達三人の魔女の表情が険しくなる。
「きやすくアルハレム様に話しかけないでくれますか? この淫乱な猫又が。……私達、というかこの私を差し置いてアルハレム様に完全服従奉仕なんて羨ましい行為なんてさせませんからね」
三人を代表してリリアが意見(後半は完全にリリア個人の欲望だが)を言うと、ツクモは肩をすくめて首を横に振る。
「淫乱って、リリア達にだけは言われたくないでござるな。……それよりも四人とも早く服を着て準備をしてほしいでござる。他の皆は全員、準備できているでござるよ」
そこでツクモは言葉を一旦切ると真剣な表情となって口を開いた。
「……何せ今日は待ちに待った日。霊亀の子供を救出するべく、魔物を生み出す森を攻略しに行く日なのでござるからな」