魔物使いのハンドレッドクエスト   作:小狗丸

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第四十八話

「あれ? ここは……?」

 

 朝起きたアルハレムは最初、自分がどこにいるのか分からなかった。寝ぼけ眼を擦りながら周囲を見回してようやくここが自分の部屋だと気づいた。

 

「そうだった。昨日帰ってきたんだったな。……それにしても」

 

 アルハレムがもう一度周囲を、今度は自分にごく近い範囲を見回すと、そこには一糸纏わぬ姿のリリア、レイア、ルルが同じベッドで眠っていた。昨日の昼だけでなく夜でも肌を重ねた三人の魔女達は、流石に体力がつきたのか幸せそうな寝顔を浮かべている。

 

「このベッドに感謝する日がくるとは思いもしなかった」

 

 アルハレムは今自分達が寝ているベッドを見て苦笑する。彼のベッドは数年前に購入された特注品で、五人くらいの大人が一緒に眠れるくらいの広さがあった。

 

 昨日までは「こんなに広いベッドで寝ても落ち着かない」と思っていたアルハレムだったが、今はこのベッドの広さに感謝していた。もしこの大きなベッドがなかったら、城の使用人達に追加のベッドを用意してもらわないといけなかっただろう。

 

「そろそろ着替えるか。………ん?」

 

「………!」

 

 ベッドから降りて着替えようとしたアルハレムは、ふと視線を感じてそちらを見ると、わずかに開いているドアから部屋の様子を覗いていたアリスンと目があった。あってしまった。

 

 一体アリスンはいつから部屋を覗いていたのか? そもそも何故覗いていたのか? アルハレムの脳裏に疑問が生じたが、次の瞬間にはそれらの疑問は今重要ではないことに気づく。

 

 アルハレムにとって今重要なのはただ一点。

 

 昨日ほぼ一日中リリア達と肌を重ねていた自分が、今ベッドで眠っている彼女達と同じ裸だという点だった。

 

「「…………………………」」

 

 思わず目をあわせたままたっぷり十秒ほど硬直する二人の兄妹。そして長い沈黙の後……、

 

「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?」

 

 マスタノート辺境伯の城に悲鳴が響き渡った。

 

 ☆★☆★

 

 昼すぎ。アストライアは城内の一室に、昨日の昼食の席に同席した者達を集めた。

 

「全員集まったようだな」

 

 アストライアは部屋に集まった面々を見る。

 

 その中で顔を真っ赤にしたアリスンが隣にいるアルハレムを何度も横目で見て、妹の視線にアルハレムが気まずそうな表情をしていたが、理由を知っている全員は二人を無視して、アストライアも気づかないふりをして話を始めた。

 

「集まってもらったのは他でもない。このマスタノート領におけるある重大な問題について私から話すことがある」

 

「あの……アストライア様? マスタノート家の問題の話し合いなら、俺はいない方がよいのでは?」

 

 リリア、レイア、ルルはアルハレムが仲間にした魔女であるためどちらかと言えばマスタノート家の立場だが、ライブは隣の領地の貴族ライブ家の当主だ。

 

 他家の問題に自分が関わるのは不味いのではないかとライブがためらいがちに言うが、アストライアは首を横に振ると否定した。

 

「いや。ビスト伯、これはそちらにとっても少なからず関わりがある問題だ。是非聞いておいてもらいたい。……何故なら重大な問題とはあの忌々しい『魔物を生み出す森』についてだからだ」

 

『…………………………!』

 

 アストライアの言葉にリリア達三人の魔女を除く部屋にいる全員の顔色が変わる。

 

 魔物を生み出す森。

 

 マスタノート領の四分の一を占め、隣国エルージョにも範囲を伸ばしている無限に魔物が出現する森。

 

 そこから外界に漏れ出る魔物によってギルシュとエルージョを行き来する商人達は幾度となく危険にさらされ、これによる被害にはマスタノート家だけでなく自分もエルージョからの輸入品を取り扱っているビスト家も頭を悩ませてきた。

 

「……なるほど。確かにあの森の話になるとウチも無関係とは言ってられませんね」

 

「それでお母様。魔物を生み出す森についての話とは一体なんですか?」

 

 ライブが納得すると今度はアイリーンが質問をしてアストライアがそれに頷く。

 

「……マスタノート家がこの地を治め始めた頃よりの因縁がある忌々しいあの森。私はあの森の『攻略』を行うことに決めた」


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