魔物使いのハンドレッドクエスト   作:小狗丸

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第四十六話

「お兄様だぁ! やっと帰ってきたぁ♪」

 

「うわっ!?」

 

 勢いよく開かれた扉から青白い閃光が部屋に入ってきたと思うと、青白い閃光はアルハレムに突撃する。

 

 青白い閃光は輝力で身体能力を強化して体から光を放つ戦乙女だった。

 

 戦乙女は十五、六歳くらいの少女で、短く切った金髪にはいくつもの寝癖があり、下着の上にシャツを一枚羽織った寝起き姿でアルハレムに抱きついていた。

 

「ひ、久しぶりだな。アリスン」

 

「うん♪ 久しぶり、お兄様♪」

 

 アルハレムに名前を呼ばれて寝起き姿で抱きつく戦乙女が満面の笑みで頷く。

 

 アリスン・マスタノート。

 

 アルハレムとは父親が同じ妹で、アストライアの末の子供である。

 

「もう起きたのね。アリスン」

 

「アリスン! お前、なんて格好をしている! ここにはライブ伯もいるのだぞ!」

 

 アルテアとアイリーンが声をかけるが、アリスンは全く聞いておらずアルハレムに頬擦りをして甘えてくる。

 

「お兄様♪ お兄様♪ お兄様♪ 今までどこに行っていたの? アリスン、ずっと探していたんだから」

 

「そうみたいだな。すまなかったなアリスン。そのことなんだが実は俺、冒険者になったんだ」

 

「冒険者?」

 

 顔を見上げて聞いてくるアリスンにアルハレムが頷く。

 

「そうだ。アリスンも伝説で知っているだろ? クエストブックを開いて冒険者は何処か知らない場所に飛ばされるって。冒険者になった俺はクエストブックにエルージョまで飛ばされて、そこにいるリリア達と一緒に旅をしていたんだ」

 

 そこまで説明してアルハレムがリリア達を見ると三人の魔女達がアリスンに挨拶をする。

 

「初めまして。サキュバスのリリアといいます。こちらはラミアのレイアです」

 

「………」

 

「ルル、言う。種族、グール」

 

「………ふ~ん」

 

 挨拶をされたアリスンは、さっきまでアルハレムに向けていた表情とはうって代わって全く興味がないという表情となって、半眼でリリア達を見た。

 

「あっそ。今までお兄様を助けてくれてありがとう。でももういいわ。貴女達、もういらないから何処へなりとも消えなさい」

 

『………!?』

 

 アリスンの言葉に部屋の空気が凍りつく。リリアが額に青筋を浮かべながらも、相手が自分の主の妹だということで怒りを我慢して口を開く。

 

「あ、アリスンさん、でしたか? い、今の言葉はどういう意味でしょうか?」

 

「気安く呼ぶんじゃないわよ。言った通りの意味よ? これからはお兄様の身は私が守るって言ってんのよ。お兄様が冒険者になったと言うなら私が旅に同行する。だから貴女達はもういらない。……というか、貴女達みたいな女をいつまでもお兄様の視界においとけるわけないでしょう。汚らわしい」

 

「「「………………!!」」」

 

「何よ? やる気?」

 

 アリスンの言葉に我慢の限界を越えたリリア、レイア、ルルが憤怒の表情で立ち上がり、アリスンも彼女達を迎え撃とうと体に纏う輝力の輝きを強めた。

 

「お、おい、お前達! 少し落ち着け……」

 

 一触即発の空気の中、アルハレムがリリア達三人の魔女と自分の妹を落ち着かせるため声をかけようとした時、

 

 

【止めないか!】

 

 

「きゃあ!?」

 

「………!?」

 

「な、に?」

 

「ひいっ!?」

 

 リリア、レイア、ルル、アリスンの脳裏に大音量の一喝が響き、四人は頭を押さえてうずくまった。そんな四人の姿を見てからマスタノート辺境伯は自分の娘に向けて口を開いた。

 

「アリスン。客人の前で見苦しい真似は止めろ。リリア達と戦うことは私が許さん。いいから早く着替えてこい」

 

「で、でもお母様……」

 

「いいから着替えてこい!」

 

「は、はい!」

 

 アストライアに戦うことを禁じられたアリスンは抗議をしようとするが、有無を言わせぬ母の言葉に負けて逃げるように自分の部屋へと走り去って行った。

 

「な、何ですか? 今の頭に響いた声は?」

 

「今のは母さんの声だよ。母さんは遠くの人に自分の心の声を届ける固有特性を持っているんだ」

 

 頭を押さえながら呟くリリアにアルハレムが説明する。

 

「母さんはこの固有特性を使って兵士達の指揮をするんだ。伝令を使わず即座に的確な指示を部下に出すことができる母さんは兵を使った戦いでは負け知らずで、『神速の名将』の異名で呼ばれているんだ」

 

「兵を使った戦いだけではない。私は個人の戦いでも負け知らずだぞ」

 

 アルハレムの説明をアストライアが訂正するが、兵を使った戦いでは負け知らず、という点は否定しなかった。

 

「異名で呼ばれているのはアストライア殿だけではないでござるよ。何せこの家の面々はとても強力で変わった固有特性を持っている強力な戦士ばかりでござるからな。そこにいるアイリーンとアルテアは『双剣の戦姫』に『慈悲の聖女』、そして今さっき退散したアリスンは『戦場で遊ぶ悪童』と呼ばれているでござる」

 

「な、なんというか一家揃って凄い異名ばかりですね……。それでアルハレム様はどの様な異名で呼ばれているのですか?」

 

 ツクモが語るマスタノート家の面々の異名にリリアは思わず苦笑し、次に自分の主はどんな異名がつけられているのか聞いてみた。すると……、

 

「……………」

 

「あ、アル。そんなに気にするなって」

 

 話を聞いていたアルハレムが暗い顔となって落ち込み、それをライブが励ます。それを見たツクモは笑いながらリリアに話す。

 

「残念ながらアルには異名はまだないでござるよ。アルの固有特性、超人的体力は確かに便利でござるが、効果があまり表に現れずに地味ござるし、アルは戦乙女ではないでござるからな。中々活躍の機会がなくて異名がつかないでござる」

 

「……まあ、そういうことだ。これも俺が力をつけたい理由の一つなんだよ」

 

 ツクモの説明にアルハレムは悲しそうに疲れたようなため息を吐いたのだった。


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