魔物使いのハンドレッドクエスト   作:小狗丸

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第四十四話

「……あっ。そういえばライブ? お前、早馬を出して家に俺のことを伝えてくれたんだよな? どんな風に伝えてくれたんだ?」

 

「どんな風にって……あの時は先に出発したアル達と合流するためにとにかく急いでいたからな。短く『アルを見つけたので、旅先で知り合ったという三人の仲間達と一緒にそちらに送り届ける』と手紙に書いてそれを早馬に持たせたな」

 

 思い出したようにアルハレムが質問をすると、向かい側の席に座っているライブが顎に手を当てて答え、隣にいるツクモも頷く。

 

「ツクモさんもそう聞いているでござるよ。早馬がライブの手紙を持ってきた時は皆凄く喜んでいたでござるよ。特にアリスンなんかは手紙を読んだ途端に一人で城を飛び出そうとして、城中の兵士達総出で止めることになったでござる。だからアリスンの代わりとしてツクモさんがアルを迎えに行ったでござるよ」

 

 アリスンというのはアルハレムと今は亡き同じ父親を持つ妹の名前だ。

 

 自分の無事が確認された手紙を見て妹がどの様な行動をとったのか用意に想像できたアルハレムは頭痛をこらえるように額に手を当てた。

 

「アイツはもう本当に……仕方がない奴だな」

 

「にゃはは♪ それだけ愛されているってことでござるよ。それよりもアル? 彼女達をアリスンを含めた家族にどう紹介するか考えたでござるか?」

 

「うっ!?」

 

 ツクモがリリアとレイア、ルルの三人を横目で見ながら訊ねるとアルハレムの顔色から血の気が引いて青くなる。

 

「皆、アルに仲間が三人できたのは知っているでござるが、それがまさかこんな美人の魔女達とは夢にも思っていないでござるよ。皆さぞかし驚く……いや、驚くどころかあの姉妹のことだから血の雨が降るでござるな」

 

「ううっ……!」

 

 以前から気づいてはいたが結局解決策が見つからず先送りにしていた問題を突きつけられて、アルハレムの脳裏に自分の姉妹の顔が浮かび、顔色から更に血の気が引いて青から白となる。

 

「ら、ライブ君? ツクモさん? お、お願いがあるんだけど……ライブ君もツクモさんも一緒に皆に説明を……」

 

「断る!」

 

「嫌でござる♪」

 

 すがるような顔で頼もうとするアルハレムだったが、それに即答で断るライブとツクモ。

 

「あの……アルハレム様のお姉様達と妹様ってどんな方達なんですか?」

 

「………?」

 

「何故、我が夫、家族、に、怒られ、る?」

 

 アルハレム達のやり取りを見ていて事情が飲み込めないリリア、レイア、ルルが訊ねるが彼女達に答える者はいなかった。

 

 ☆★☆★

 

 マスタノート辺境伯の城は城塞都市マスタロードの西側に位置している。

 

 アルハレム達を乗せた馬車が城に到着して城門をくぐると、中庭にはマスタノート家の兵士達が整列して待ち構えており、整列した兵士達の前には燃えるような赤の髪を長く伸ばした一人の女騎士が立っていた。

 

 兵士達の前に立つ女騎士の年齢は二十代前半くらいだろう。均整のとれた長身の体を美しい装飾を施された実戦的な甲冑で固めて、腰の左右に長剣を一振りずつ差しているその姿は、まさに麗人の騎士といえた。

 

 女騎士が整った顔を引き締めて到着した馬車を睨み付けるように見ていると、やがて馬車から彼女が待ち望んでいた人物、アルハレムが姿を現した。

 

「あ……。アイリーン姉さん。た、ただいま……」

 

「何がただいまだ! この大馬鹿者!」

 

 馬車から降りたアルハレムがためらいがちに挨拶しようとすると女騎士が一喝する。

 

 女騎士の名前はアイリーン・マスタノート。

 

 アルハレムとは父親が違う姉で、マスタノート辺境伯が産んだ最初の子供だった。優秀な戦乙女である彼女は何年も前よりマスタノート家の兵隊をまとめる指揮官を勤めており、次期マスタノート辺境伯と目されている人物である。

 

「突然姿をくらませたと思ったら、ビスト伯の領地に無断で訪れて、更にはいくら昔からの友人とはいえビスト伯の手を煩わせるとは……! お前にはマスタノート家の長男としての自覚はないのか!」

 

「は、はい。申し訳ありません」

 

 怒声を発するアイリーンにアルハレムは返す言葉もなくただ謝ることしかできなかった。

 

「それに、お前がいなくなったことで城内の者達がどれだけ心配したのか理解しているのか? お母様……辺境伯は領内全てに捜索隊を放ち、アルテアもアリスンも自ら兵を率いて夜も寝ずに探していたのだぞ。それくらい心配していたのだ」

 

「……はい。本当に申し訳ありません」

 

 家族に大きな心配をかけた事実にアルハレムは頭を下げて謝る。すると頭に姉の手がのった。

 

「……当然、心配したのは私もだ。……あまり心配をかけるな、アルハレム」

 

「アイリーン姉さん?」

 

 アルハレムが顔を上げるとそこには小さく笑みを浮かべる姉の表情があった。

 

「とりあえず今は少し休め。その後で今までに何があったか聞かせてもらうぞ」

 

「はい。分かりまし……」

 

「アルハレム様? 話は終わりましたか?」

 

 アルハレムがアイリーンに答えようとした時、馬車から顔を覗かせているリリアが訊ねる。サキュバスの隣にはラミアとグールも同じように顔を覗かせていた。

 

「……誰だ? お前達は?」

 

 アイリーンがリリア達に聞くと彼女達に代わってアルハレムが気まずそうに答える。

 

「あの……アイリーン姉さん? 彼女達は俺の仲間です。今日までの旅で知り合った……。その、ライブが手紙で書いてくれたって言ってましたけど?」

 

「…………………………………………………仲間?」

 

 アルハレムの言葉を聞いたアイリーンは、リリア達の容姿とその扇情的な衣装を見た。その直後、

 

 シャキン!

 

「ひいっ!?」

 

 腰に差した長剣をアルハレムの首筋に突きつけて女騎士は憤怒の表情を己の弟に向けた。

 

「悪いが気が変わった。アルハレム・マスタノート……。今日までお前の身に何があったか、今ここで洗いざらい話せ!」

 

 アイリーンの怒声が周囲に響き渡り、それを馬車の中で聞いていたライブがため息をつき、ツクモが面白そうに笑う。

 

「………こうなると思ったよ」

 

「予想通りでござるな♪ 愛されすぎるのも大変でござる♪」


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