魔物使いのハンドレッドクエスト   作:小狗丸

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第四十二話

「なっ!? 何者ですか!?」

 

「………!?」

 

「い、いつの、間に?」

 

 リリア、レイア、ルルの三人は、自分達に気づかれることなくこの馬車の中に侵入してライブの隣に現れた女性を驚愕の表情で見る。驚いているのはアルハレムとライブも同様だったが、二人の驚きようは三人の魔女達のとは若干異なっていた。

 

「つ、ツクモさん? どうしてここに?」

 

「ああ、ツクモさん! まさかこの様な所で会えるとは思いませんでした!」

 

 アルハレムとライブの言葉にリリア達三人の魔女は、この侵入者の女性こそが自分達が何者か知りたかった人物だと気づき彼女の姿を確認する。

 

 ライブの隣に座る女性、ツクモの外見は色々と特徴的だった。

 

 年齢は二十代前半くらい。銀色の髪を短く切り揃えてており、肌の色はアルハレム達と比べて僅かだが黄の色が混じっているように見えた。

 

 服装は「キモノ」と呼ばれる中央大陸ではまず見かけない意匠の服を来ていて、大きく開かれた胸元からはリリアよりは小さいがレイアとルルより大きい巨乳が覗かせており、短く切られた裾からはすらりとした両足が伸びていた。

 

「……貴女が、アルハレム様とライブ様が言っておられたあの『ツクモさん』ですか?」

 

「そうでござるよ♪ ツクモさんがあの噂のツクモさんでござる♪ そこにいるアルの実家で厄介になっている『猫又』で、貴女達と同じ魔女でござるよ」

 

 アルハレムをライブと同じく昔の呼び名で呼ぶツクモは、リリアに人懐っこそうな笑顔を浮かべながら答えると、頭にある一見癖毛に見える猫の耳を動かしてから後ろに隠れていた二本の尻尾を見せた。

 

「猫又……。確か『外輪大陸』の辺境で暮らしているという種族でしたね。他の魔女とは違う独自の習慣を持ち、人間とも比較的に交流を持っているという……」

 

 リリアは脳裏から猫又に関する知識を呼び起こす。外輪大陸というのは、今アルハレム達がいる中央大陸を海を挟んで取り囲んでいる輪っかのような形をした大陸のことである。

 

「む? 貴女、中々物知りでござるな。その通りでござるよ。ちなみにツクモさんはアルの初恋の女性でごさるが……それは知っていたでござるか?」

 

「「「……………!?」」」

 

「ちょっとツクモさん!?」

 

 ツクモの言葉にリリア、レイア、ルルが驚愕のあまり固まり、アルハレムが慌てて止めようとするが猫又の女性は構わず言葉を続ける。

 

「アルとは十年前からの付き合いでござるが、アルときたら初めて会った時からツクモさんのオッパイばっかり見ていて……。三人もかなり大きいオッパイでござるが、アルが初めて興味を持ったのはツクモさんのオッパイでござるよ♪」

 

「「「………!? ………!」」」

 

「ひぃっ!?」

 

 ツクモが自分の乳房に手を当てながらリリア達にからかうような挑発的な視線を送ると、三人の魔女達は一瞬表情を強ばらせると自分達の主に憤怒の表情を向け、それを見たアルハレムは短い悲鳴をあげた。

 

「え、えーと……その、それは……そうだ! さっきも聞きましたけど、ツクモさんはどうしてここに? というかいつから馬車の中に?」

 

 仲間であるリリア達の追求を避けるためにアルハレムが強引に話をそらそうとすると、ツクモがそんな彼の必死な表情を見て面白そうに笑みを浮かべる。

 

「むむっ? アル、今話をそらしたでござるな。……まあ、よいでござるが。ツクモさんがこの馬車に乗ったのは今さっきでござる。昨日、ライブの子分が早馬でアルが見つかったと伝えてきたので、迎えに行ってみればこの馬車を見つけたのでござるよ」

 

「ライブ、お前早馬を出してくれたのか?」

 

「当然だろう。抜かりはないさ。……それとツクモさん! 俺も貴女が初恋で今も愛していますから!」

 

 ライブはアルハレムに答えると、頬を赤くして愛してやまない獣娘……猫又の女性に愛を語る。だがツクモはからかうような表情で首をかしげる。

 

「むむむっ? ライブはツクモさんの子分のタマとミケに、一月に十通以上も恋文を送っていたはずでござるが? しかも恋文には自分が愛しているのはお前だけ、と書いてあったと聞いたでござるよ?」

 

「うぐぅ!?」

 

 ライブはツクモの指摘に言葉を詰まらせる。どうやら図星であるらしい。もちろん今話に出たタマとミケも猫又で、ライブの言う獣娘である。

 

「タマとミケ、怒るでござるよ~? 特にタマなんてライブの言葉を真面目に受け取っているでござるから、怒った後で泣くでござるな」

 

「ぬあぁ……!」

 

「にゃはは♪」

 

 頭を抱えて苦悶の声をあげるライブを見てツクモはひとしきり笑った後、アルハレムの方を見た。

 

「それでアル? お前、今まで何処で何をしていたでござるか? 突然いなくなったと思ったら、サキュバスとラミアにグール……魔女を三人も恋人にしているし。どうやって彼女達を口説いたでござるか?」

 

「実は……」

 

 そこでアルハレムは、クエストブックを手にして冒険者となり今日まで旅してきた話をツクモに話した。

 

「クエストブックを手に入れたでござるか? そして魔物使いの冒険者となって、そこの魔女達を仲間にしたと?」

 

 アルハレムの旅の話にツクモがそれまでの笑みを消し、目を丸くして驚いているとリリア達が挨拶をする。

 

「リリアと申します。一番最初にアルハレム様の僕にしていただきました。そしてこちらが二番目に僕になったレイア。無口なので私が紹介します」

 

「………」

 

「ルル、言う。よろ、しく」

 

「……いやいや、これには流石のツクモさんも驚いたでござるよ。アルの固有特性のことは知っていたでござるが、本当に魔女に手を出して干からびていないとは……」

 

 ツクモはリリア達の挨拶を聞いた後、信じられないという表情で再びアルハレムを見る。

 

「しかもあのクエストブックの所有者、冒険者とは……こうなると分かっていればもっと昔に、危険を覚悟してでもアルを誘惑していたのでござるが……。いや、今からでも遅くないでござるか?」

 

 そう言ってツクモは、今までのからかうような笑みでも人懐っこそうな笑みでもない、口は笑っているが目は笑っていない肉食獣のような笑みをアルハレムに向けた。

 

「つ、ツクモさん?」

 

「む? どうしたでござるか、アル? 冗談でござるよ」

 

 ツクモを除く馬車の中にいる全員が驚いてツクモを見ると、猫又の女性は先程の肉食獣の笑みが嘘のような人懐っこそうな笑顔を浮かべた。

 

「とにかくツクモさんもこのまま馬車に同車させてもらうでござるよ。ライブ、いいでござるか?」

 

「はい! 勿論です!」

 

 馬車の所有者であるライブが即答したことで、マスタノート領へと向かって走る馬車は新たに一人、猫又の魔女を乗せたのだった。


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