魔物使いのハンドレッドクエスト   作:小狗丸

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第三十九話

「……ん?」

 

 アルハレムが目を覚ますと彼は一本の木の下で眠っていた。空を見上げると太陽が高く昇っており、今が昼に近い時間だと分かる。

 

「うう……体が重い……。というか俺、何で裸なんだ?」

 

 木の下で寝そべっているアルハレムは衣服や下着を一切身に付けておらず、衣服や武器は周囲に散らばっていて、唯一毛皮のマントだけが彼の下に敷かれていた。そして裸のままで横になっている魔物使いの隣には……、

 

「んん……♪ アルハレム様ぁ♪」

 

「………♪」

 

「我が夫、もっ、と……♪」

 

 魔物使いの主と同じく一糸纏わぬ姿で幸せそうな寝顔を浮かべながら眠っているサキュバスとラミア、そしてグールの従者の姿があり、彼女達を見てアルハレムは自分の身に何が起こったのかを思い出した。

 

 昨日の夜。契約の儀式でリリアとレイアの力を借りてルルを倒したアルハレムは、彼女が仲間になったのを確認すると自分がつけた傷の手当てをしたのだが、手当てが終わった途端にグールの少女は自分を負かした己の主……「夫」の体を求めてきたのだ。

 

 当然アルハレムは「こんなところですることじゃない」と断ったのだが、それに対してルルは「自分は妻なのだからいつ何処で行ってもおかしくない」と訳が分からないことを言って頑として譲らず、結局根負けした魔物使いは怪我をしていることも考えてできる限り優しくグールの少女と肌を重ねた。

 

 するとそれを見ていたリリアとレイアが「自分達はそんなお姫様のように抱かれたことがない!」と怒りの炎、いや業火を燃やして自分達も裸体をさらすと肌を重ね、魔物使いとグールの繋がり合いは大乱行に発展。最後には三人の魔女に限界まで精と生命力を吸いとられてアルハレムは気絶してしまい、今まで眠ってしまったのだ。

 

「……はぁ。コイツらもよくやるよ。いや、それは俺もか」

 

 アルハレムはリリア達三人、そして自分自身の性欲に呆れてため息を漏らすと服を着た。すると……、

 

「おはようございます、アルハレム様♪」

 

「………♪」

 

「おは、よう、我が夫♪」

 

 ムニュ♪ ムニュ♪ ムニュ♪

 

 目を覚ましたリリア、レイア、ルルの三人が同時にアルハレムの背中に抱きつき、服ごしに極上の柔らかな感触が襲ってきた。

 

(うっ♪ ……くっ、もう何度もリリア達の体に触れているのにやっぱり気持ちいいな)

 

「……三人とも、ふざけていないで早く服を着てくれ。早くライブの所に行ってルルのことを説明しないといけないのだから」

 

 三人の魔女の乳房の感触に思わず声を漏らしそうになったアルハレムはなんとか堪えると、体の奥に沸き上がってきた欲望を必死に押さえ込みながらリリア達に服を着るように命じた。

 

 ☆★☆★

 

「……なるほど。事情は分かった」

 

 ライブの屋敷に戻ったアルハレムが昨夜に起こった出来事を全て話すと、話を聞き終えたライブは納得したように頷いた。

 

「今回の墓荒らしはそこにいるグールの少女、ルルさんが食糧を得るための行動で彼女には悪意も、これ以上墓荒らしをする気もなかった。それでアル、君は監視の名目をたてることによって教会がルルさんを狙わないようにするために彼女を自分の従者にした。……そういうことだな?」

 

「ああ、そうだ」

 

 短く答えるアルハレムにライブは少しの間考えるとため息を吐いて頷く。

 

「……………はぁ。そうだな。墓を荒らされた遺族達を考えたら完全に納得できないが、アルの取った行動が今のところ一番いいんだろうな。分かった。教会の方には俺から言っておく。住民達には墓を荒らしていたのは最近この辺りに住み着いた魔物で、もう退治したと説明する。……多少強引だが、これ以上墓荒らしが起きないんだったら、次第に納得していくだろう」

 

「すまないな、ライブ」

 

「ありが、とう」

 

 自ら厄介事を引き受けてくれた友人にアルハレムとルルが頭を下げて礼を言うと、ライブは口許に笑みを浮かべて答える。

 

「これぐらい大したことじゃないって。あまり気にするな。……でも、そうだな? もしもアルが少しでも俺に恩義を感じてくれているのだったら……」

 

 そこまで言うとライブは、今までの態度とは一転して興奮気味にアルハレムを見る。

 

「今回の件で俺がいかに領主らしく振る舞っていたか『ツクモ』さんに詳しく語ってくれないか? どうせアル、これから実家に帰るんだろ?」

 

「ああ、そのつもりだ。ツクモさんにはお前が真面目に領主の仕事をしていたって話しておくから安心してくれ」

 

「絶対だぞ!? できるだけ! できるだけかっこよく表現してくれよ! 頼んだぞアル!」

 

 頬を赤く染めて言うライブをアルハレムは苦笑を浮かべながらも馴れた様子でおさめる。

 

「分かった。分かったから、そろそろ落ち着いてくれ、ライブ」

 

「……ん。そ、そうだな。……そういえばアル? ミレイナのことなんだが……」

 

「「「あっ!」」」

 

「………!」

 

 ライブに言われてアルハレム達は、昨夜にミレイナをロープで縛った状態で共同墓地に放置して、そのまま忘れていたことを思い出す。完全に記憶から消えていたため、アルハレムが先程話した昨夜の話にもミレイナのことは語られていなかった。

 

「……あ、あー、ライブ? その、ミレイナなんだが……」

 

 アルハレムが気まずいながらもミレイナのことを話そうとすると、それより先にライブが口を開く。

 

 

「ミレイナの奴、昨日何があったか分からないんだが、朝早くに上半身をロープで縛られた状態で教会に帰ってきたらしいんだよ。しかも教会に帰るなり自室に引き込もって、人形のような無表情で『男はケダモノなのです』と延々と同じ言葉を繰り返し言っているみたいなんだ」

 

 

「「「「………………………」」」」

 

 青年領主が語った神官戦士の奇行に、魔物使いと三人の魔女達は思わず沈黙する。

 

 確証はない。だが魔物使いと三人の魔女達は確信する。

 

 昨夜、ミレイナはアルハレムがリリア達魔女三人を相手に激しく肌を重ねている様子を見てしまったのだ。そして幼い頃より教会で神官戦士の修行に励んでいた少女は、あまりにも刺激が強すぎる光景を目撃してしまったせいで心を閉ざしてしまったのだろう。

 

「あのミレイナが一体どうしたらそんな状態になるのやら……。アルは何か知らないか?」

 

「イ、イイ、ヤ? ゼ、ゼン、ゼン、シ、シラ、ナイ、ヨ?」

 

 首をかしげて聞いてくるライブに心当たりがありすぎるアルハレムは誤魔化そうとするが、この時の彼の口調はまるでルルのような口調となっていた。

 

 そしてライブが事件が解決したことを認めたことでクエストが達成され、無事神力石を手に入れるとアルハレム達は逃げるようにライブの屋敷を後にしたのだった。


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