魔物使いのハンドレッドクエスト   作:小狗丸

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第三十五話

「ちょ! ちょっと待ちなさあああああい! 何で! 何で貴女が勝ったら私達がアルハレム様と別れないといけないのですか!?」

 

「………! ………! ………!」

 

 突然のルルの発言に思わず固まったアルハレム達三人の中で最初に動いたのはリリアだった。

 

 リリアの口から伝説の「龍の息吹」と思われるほどの激しい怒声が発せられて大気が震え、横にいるレイアが何度も高速で首を縦に振る。

 

「何で? 決まってる」

 

 ルルはリリアの怒声に彼女の方を僅かに見ると、すぐにアルハレムに視線を向けて何でもないように答える。

 

「この、男、ルル、恐れ、ない、強く、勇敢。ルル、強く、勇敢な、男、好き。だから、夫、する。でも、ルル、以外、この、男、側に、いるの、嫌」

 

 強く勇敢なアルハレムを気に入り、自分だけのものにしたいと答えるルルに、リリアとレイアは怒りを爆発させる。

 

「そんなのは私達も同じです! 何で後から出てきた貴女なんかにアルハレム様を盗られるなんて私は認めませんからね! 例え貴女がアルハレム様に勝てたとしても私達は絶対に別れませんからね!」

 

「………! ………! ………!」

 

 食らいつくように叫ぶリリアと高速で何度も頷くレイアに、ルルは仕方がないとばかりにため息を吐く。

 

「……そう。仕方、ない。なら、この、男に、勝った、後、貴女、達、追い、払う。大丈夫。ルル、一人、でも、貴女、達の、分も、この、男、守る」

 

「「…………………………!?」」

 

 バサバサッ!

 

 アルハレムに勝った後でリリアとレイアを追い払い、二人の代わりに彼を守ると言い切ったルルに、サキュバスとラミアの怒りは最高潮に達し、森に棲む野鳥達が魔女二人の怒気に感じて我先にと飛び立ち逃げていく。

 

「上等だ! ヤれるもんならヤってみろ、コルァ! ……ぐぅ!?」

 

「………! ………!?」

 

 怒りが限界を超えたリリアとレイアは、弦を引き絞った弓から放たれた矢の如き速度で走り、二人同時に稲妻のような拳を放つのだが魔法陣の壁によって防がれてしまう。

 

 契約の儀式の魔法陣は、公平を期すために外からのどんな妨害も防ぐと伝説で伝えられており、それが証明された瞬間だった。

 

「痛た……。私としたことが魔法陣の壁のことを忘れていました……。かくなる上は……アルハレム様!」

 

「………!」

 

「えっ!? あっ、はい!」

 

 それまでリリアとレイアのあまりの迫力に何も言えなかったアルハレムだったが、仲間のサキュバスとラミアに呼ばれて慌てて返事をする。

 

「アルハレム様! どんな手を使っても構いません! 絶対にその娘に勝ってください! もし負けたりしたら分かってますね!」

 

「………!」

 

「は、はい!」

 

 掴みかからんばかりのリリアとレイアの気迫に思わず直立不動の体勢となって返事をするアルハレム。もはやどちらが主で、どちらが従者なのか分からない光景であるが、今の状況でこの魔物使いを情けないと言える者はいないだろう。

 

 サキュバスとラミアのもはや殺気の領域の怒気に体を震わせている魔物使いに、グールの少女は哀れむような声をかける。

 

「貴方、憐れ。そんな、凶悪な、魔女達、一緒、大変」

 

「何ですってぇ!?」

 

「………!」

 

 ルルの言葉にリリアとレイアは更に怒気に強めるが、グールの少女は全く気にした様子も見せずに背中の大剣を抜き、アルハレムに慈愛と野性が入り交じった笑顔を見せる。

 

「でも、もう、安心。これ、からは、ルルが、貴方、守る。敵、からも、あの、魔女達、からも」

 

「ハハハ……。それはどうも……」

 

 グールの少女が体から青白い光を放ち、大剣を構える。それを見てアルハレムも腰に差したロッドを抜いて構える。

 

「全力で、いく。どうか、死なない、で、……ルルの、夫よ」

 

「アルハレム様! 手加減はいりません! 全力でその娘のふざけたことしか言わない頭をかち割ってください!」

 

「………!」

 

(何だろう……。この戦い、勝っても負けても酷い目に遭いそうな気がする。……特に俺が)

 

 前方には肉食獣のような笑みを浮かべたグール。

 

 後方にはオーガも逃げ出すような怒りの表情を浮かべたサキュバスとラミア。

 

 アルハレムは、今自分が仲間が一人もいない絶体絶命の状況にいるような気がして額に一筋の汗を垂らした。


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