魔物使いのハンドレッドクエスト   作:小狗丸

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第三十四話

「ここが、いい」

 

「そうだな。ここなら丁度いいだろう」

 

 ルルの言葉にアルハレムは周囲を見回して余計な障害物がないことを確認してから頷く。

 

 リリアとレイアの喧嘩を止めた後、ルルを含めたアルハレム達は共同墓地から少し離れた今いる場所に移動していた。共同墓地で契約の儀式という決闘を行えば、周囲に大きな被害が出ると魔物使いの冒険者とグールの少女は同じ結論を出し、戦う場所を変えることに決めたためだ。

 

「それじゃあ、さっそく準備をするか。……リリア、レイア。ミレイナの監視、よろしく頼む」

 

 アルハレムはロープで縛られた状態で地面に倒れている気絶したミレイナを見下ろす。流石に気絶した彼女を共同墓地に放置しておけないのでここまで連れてきたが、今目を覚まされても面倒なのでリリアとレイアに監視を頼むことにした。

 

「はい。お任せください」

 

「………」

 

 リリアとレイアがミレイナの監視を引き受けたのを確認するとアルハレムは、儀礼用の四本の短剣を地面に突き刺す。すると四本の短剣からそれぞれ光の線が伸びて他の短剣を繋ぎ合わせ、契約の儀式を行うための空間、正方形の形をした魔法陣が完成した。

 

「契約の儀式ではこの魔法陣の中で戦うが構わないな」

 

「構わ、ない」

 

 ルルは一つ頷いてみせるとためらうことなく魔法陣の中に入っていき、それを見届けるとアルハレムは自分の右隣にきていたリリアに向き直る。

 

「リリア、頼む」

 

「はい♪ アルハレム様♪」

 

 リリアは笑顔で返事をするとアルハレムに口づけをして、唇を通して自分の輝力を己の主に送り込む。

 

「……………ぷはっ。はい♪ これで準備完了です♪」

 

「ああ、ありがと……!?」

 

「………」

 

 リリアが自分の輝力のほとんどをアルハレムに送り込んで唇を離すと、今度はいつの間にか二人の側に来ていたレイアが強引にアルハレムの顔を自分の方に持ってきて口づけをした。

 

「な、何をしているのですか、この駄蛇娘は!? アルハレム様から離れなさい!」

 

「………。………♪」

 

 レイアはリリアの抗議を無視してしばらくアルハレムの唇に自分の唇を重ねると、やがて顔を離して「これで本当に準備完了♪」という風に笑みを浮かべた。

 

「レイア? お前は一体何を? ……いや、今はいいか。行ってくる」

 

 何故レイアがいきなりあんな行動を取ったのか分からないが、いつまでもルルを待たせるわけにもいかないのでアルハレムは魔法陣の中にと入った。魔法陣の中では、腕を組んだグールの少女が目を閉じながら待っていて、ようやく戦う相手が入ってきたのが分かると目を開いて呆れの中に僅かな羨望が混じった視線を向けてきた。

 

「……もう、いいの?」

 

「ああ、待たせてすまなかったな」

 

「別に、いい。戦う、前に、キス、随分、仲が、いい」

 

「そうだな。本当に、たまに困るくらいに仲がいいよ……っと」

 

 そう言うとアルハレムは輝力で身体能力を強化して戦闘態勢をとり、その際に彼の体が青白い光に包まれたのを見てルルは驚きのあまり目を大きく見開いた。

 

「それ、輝力? 貴方、男、何故、輝力、使える?」

 

「驚いたか? これは今さっきリリアからもらった輝力だ。俺はリリアから輝力を分けてもらうことで戦乙女の真似事ができるんだ」

 

「……なる、ほど。あの、キス、そういう、意味」

 

 アルハレムの説明を聞いてルルは、彼がさっきリリアと口づけをした時に輝力を貰っていたことに気づく。それと同時に目の前の魔物使いが、破れかぶれではなく確かな勝算をもって自分に契約の儀式を持ちかけてきたことを理解する。

 

(納得、した。だから、彼、ルルと、戦う、決めた。自分も、輝力、使える、から。彼、ルルに、勝つ、つもり。……面白い)

 

 気づけばルルは口許に獰猛な笑みを浮かべていた。

 

 リリアの輝力を借りて戦うことを卑怯と言うつもりはない。むしろ魔物使いのアルハレムが仲間の力を使うのは当然のことだと思う。

 

 今までルルが見てきた男は全て、彼女の力に恐れをなして逃げまとうだけの存在だった。しかし今目の前にいる魔物使いの男は違う。

 

 この魔物使いの男は、魔女である自分を恐れずに普通に接してくれたばかりか、サキュバスの力を借りているとはいえ、自分を一対一の戦いで倒して仲間にしようとしている。……自分を力ずくであのサキュバスとラミアのような周りに侍らせている女の一人にしようとしている。

 

 それらの事実が屈辱と歓喜が入り交じった複雑な感情となって、ルルの中にある「女」と「戦士」の両方を同時に強く刺激した。

 

「……? ルル? 一体何を笑っているんだ?」

 

 怪訝な顔をするアルハレムに、ルルは笑みをさらに深めて口を開く。

 

「……気、変わった。この、戦い、勝って、も、負けて、も、ルル、貴方の、仲間、なる」

 

「え? それってどういう……」

 

「でも、ルル、勝てば、貴方、そこの、二人と、別れる。貴方の、仲間、ルル、一人。貴方、ルルの、夫、なる」

 

「「何ぃ!?」」

 

「………!?」

 

 突然ルルが告げた言葉にアルハレム、リリア、レイアの三人は揃って驚愕の表情を浮かべた。


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