魔物使いのハンドレッドクエスト   作:小狗丸

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第三十三話

「まずいな……」

 

「ええ、これはまずいですね」

 

 ルルがミレイナを倒したのを見て、アルハレムが呟いてリリアもそれに同意する。

 

「………?」

 

「ああ。ルルがミレイナを……墓を荒らした魔女が神官戦士を倒した。これは少しまずいんだよ」

 

 一人だけ事情が分からないレイアにアルハレムが説明をする。

 

「確かにこの場はああするしかなかったし、大本の原因はミレイナの暴走だとはいえ、これが教会に知られたら教会にはルルを危険視して排除しようとするだろうな。……元々、魔女は魔物の中でも特に強力で危険だと人間達に認識されているし」

 

「そうですね。教会や貴族、王族といったものは自分達の面子を守るためなら何でもしますからね。しかも相手が魔女だったら殺すのに何のためらいももたないでしょうね」

 

 かつて王族の面子を潰したせいで二百年以上も封印された過去があるリリアは苦い顔になってアルハレムに同意する。

 

「……まあ、教会もミレイナの暴走には手を焼いていたみたいだし、ライブを説得して一緒にルルの弁護をしてもらえばいきなり排除されることはないだろうが……それでも何の処置をしないわけにはいかないだろうな」

 

「そうは言いますが処置とは一体何を……それは!?」

 

「………!?」

 

 リリアとレイアは、アルハレムの手に契約の儀式に使用する四本の短剣があることに気づき、揃って驚愕の表情を浮かべる。

 

「アルハレム様? もしやあのルルを仲間にするおつもりですか?」

 

「ああ。魔物使いの俺がルルを仲間にすれば、監視の名目が立って教会も彼女に手を出してこないだろう。今までのところを見て悪い娘じゃなさそうだからな。教会に排除されるところは見たくない」

 

「……そうですね。私も同感です。それにルルのあの戦闘力、仲間にすればきっとアルハレム様のお役に立ちます」

 

 アルハレムの言葉にリリアは少し考えてから同意してくれた。だが……。

 

「………!」

 

「うわっ!? レイア?」

 

 レイアはルルを仲間にするのに反対らしく、アルハレムに抱きつくと顔を何度も横に振った。下を見るとラミアの蛇の下半身が何重にも魔物使いの主の足に絡みついている。

 

「レイア! 貴女はアルハレム様のお考えに背くつもりですか!? 離れなさい!」

 

「………!」

 

 リリアはアルハレムに抱きつくレイアを後ろから羽交い締めにして強引に引き剥がす。

 

「アルハレム様! 今のうちに」

 

「あ、ああ。ありがとう、リリア。……すまないな、レイア」

 

「………!」

 

 リリアによって自由になったアルハレムは、涙目になって首を横に振るレイアに一言謝るとルルの元へと歩いていく。

 

「ルル。ちょっといいか?」

 

「貴方、魔物、使い、だった? ルル、仲間、する?」

 

「え? もしかして俺達の話、聞いてた?」

 

 ルルはアルハレムに小さく頷いてみせる。

 

「あんな、大声、当然、聞こえる」

 

「まあ、それもそうか。それでどうかな? 俺達の仲間になってくれないかな?」

 

「……貴方の、考え、理解した。ルル、助けて、くれる、嬉しい。貴方の、仲間、なる、一番、いい、分かる。でも、ルル、自分、より、強者、だけ、従う」

 

 そう言うとルルは手に持った大剣の切っ先をアルハレムに向ける。それは自分と戦って勝てば仲間になるという意思表示であった。

 

「そう言うと思ったよ」

 

 アルハレムはルルの言葉にやっぱり、という表情で頷く。

 

 魔女、魔物というのは基本的に自分より強い者にしか従わない。そしてリリアとレイアの時は違ったが、魔物使いが魔物を仲間にする契約の儀式は本来、魔法陣の中で魔物と戦って倒すことで服従を誓わせるという儀式である。

 

 つまり魔物使いが魔女を仲間にするということは、魔女と戦って勝利するということだ。

 

 ちなみにアルハレムがクエストブックから与えられた知識に、魔物使いに最も相応しい武器が鞭であるとあった理由もこの契約の儀式にある。剣や槍等を使って仲間にする予定の魔物を殺してしまっては、契約の儀式に勝利しても意味がないからだ。

 

「分かった。契約の儀式で俺がルルに勝てば仲間になってもらい、負ければこのまま見逃してライブ……この地の領主と教会には手出ししないように説得する。……それでいいかな?」

 

「それで、いい。……でも、その前、あれ、止めない?」

 

「あれ?」

 

 ルルがアルハレムの背後を指差してアルハレムが後ろを振り返る。するとそこには……。

 

「いい加減にしなさい! 大人しくしていれば調子にのってこの蛇娘がぁ!」

 

「………!」

 

 いつの間にか取っ組み合いの喧嘩をしているリリアとレイアの姿があった。二人とも全身から殺気に近い怒気を発しており、このままでは本当の殺し合いになりそうな勢いである。

 

 どうやらアルハレムはグールの少女と戦うよりも先に、サキュバスとラミアと一戦しないといけないようだ。


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