「それで貴方達は何故ここにいるのですか? ……まさか貴方達が墓荒らしなのですか?」
墓石の上に立つミレイナは、もはや敵意がこもっているといっていいほど疑わしげな目をアルハレム達に向ける。いつもの彼女であればこの時点で墓荒らしだと決めつけて攻撃してきてもおかしくはないのだが、それをしないのは昼間のライブの記憶があるからだろう。
「違うって。俺達は君と同じで墓荒らしの犯人を捕まえにきたんだって」
「何ですって? 何で貴方達がそんなことを……って!? 貴方! よく見たらアルハレム様ではないですか!? 隣の領地に住まうマスタノート家の貴族でライブ様のお友達の! どうしてアルハレム様がここに?」
ミレイナはアルハレムの言葉に意外そうな顔をした後、ようやく彼のことを思い出して驚きの声をあげたが、驚いたのは名前を呼ばれた本人も一緒だった。
「今頃思い出したの!? 昼間に会った時、名乗ったけど気づかずに攻撃してきたよね、君!? 思い出すのだったら昼間に思い出してほしかった!」
「頭の構造に欠陥があって記憶力が致命的に悪いんでしょう。きっと」
「………」
思わず叫ぶアルハレムの隣でリリアが呆れた顔で言い、レイアが無言で頷いて同意する。
「しかし何でアルハレム様が魔女達を仲間に……分かりました! そこの魔女達はライブ様の前にアルハレム様を誘惑したのですね! 確かアルハレム様はお強い戦乙女のお母様とお姉様、妹様に囲まれていたせいでまともに家族以外の女性とお付き合いしたことがない……ど、童貞でしたから魔女の魅力には抗えなかったのですね! 童貞でしたから仕方ないですね!」
「おい! 何で俺の顔を中々思い出せなかったくせに、そういうことはすぐに思い出すんだ!? というか何で童貞って二回も言った!? いい加減にしないと本当に訴えるぞ! マスタノート家の、貴族の権力の怖さを思い知らせるぞ!」
「そうです! アルハレム様は童貞なんかじゃありません! これまでに何度も私達と肌を重ねて生き残った人間の中でも一流の『雄』なのです! アルハレム様は毎晩毎晩、私達を鳴かしているのですよ!」
「………!」
ミレイナに抗議するアルハレムの両腕にリリアとレイアが抱きつき、全力で己の主が素晴らしい雄であることを主張する。
「い、いや、リリア? レイア? そんなことを大声で言わないで? お願いだから」
「な、な、な……なんて卑猥な!? や、やはりその魔女達をこれ以上見逃すわけにはいきません! 今私がこの共同墓地ごと浄火します!」
リリアの言葉に顔を真っ赤にしたミレイナは、両手に火の玉を作り出す。その表情は宣言通りこの共同墓地ごとアルハレム達を燃やそうという感じだった。
「ま、待てミレイナ! ちょっと待て! 聖職者のお前が共同墓地を燃やしたら不味いだろ! いや、俺達を燃やすのも不味いけど!」
「仕方がないのです! これは正義を執行するための尊い犠牲なのです!」
アルハレムの制止の声にミレイナは一瞬のためらいも見せずに断言すると、悲しそうな表情を浮かべる。
「……そう仕方がないのです。アルハレム様の言う通り、聖職者である私が死者の方々が眠る墓地を燃やすなど、本来は絶対に許されないのです。しかし! このままでは墓荒らしが続き、死者の方々が辱しめられるのならば、いっそのこと私が浄火するのが死者の方々のためというもの! 私は例え誰に理解されなくとも、例え恨まれたとしても正義を執行するのです!」
「……あ、アルハレム様? 何を言っているのですか、あの女は? というか何やら変なポーズをとっているのですけど?」
「………?」
リリアとレイアは理解できないといった表情で、墓石の上で悲しげな表情しながら何やらポーズをとっているミレイナを指差してアルハレムに訊ねる。
「……正直、俺もよく分からん。ミレイナはよく自分のことを、誰にも理解されずとも己の正義を貫く孤高の正義の味方だと思い込んで行動するんだ。今のも多分それだろう」
「うわ~。何ですかそれ?」
「………」
アルハレムの説明にリリアとレイアはなんとも言えない、できることなら関わりたくないといった表情を浮かべる。そしてアルハレム達がどうやってミレイナを止めようかと考えていると……、
「それ、困る。ルルのせいで、墓地、燃やされる。それ、目覚め、悪い」
突然、聞き覚えのない女性の声が聞こえてきて、ミレイナを含めたアルハレム達四人が声がした方を見ると、共同墓地の入り口に一人の女性らしき人影が立っていた。