「ここが墓荒らしに遭ったっていう共同墓地か……」
ライブから墓荒らしの話を聞いてから数時間後。墓荒らしの犯人をつきとめる話を引き受けたアルハレム達は、善は急げとばかりに日が沈んで夜になると墓荒らしが起こった共同墓地に訪れた。
「ライブから聞いた話によると墓荒らしが最初に起こったのは今から十日前で、荒らされた墓は十八。大体一日に二件の割合で荒らされている」
「十日前ですか……。でしたらライブ様が言っていた不審な人影とアニーとは何の関係もなくなりましたね♪」
十日前といえばアルハレム達もアニーもまだ隣国のエルージョにいた頃だ。リリアの言う通り時期的に考えて、犯人かと思われる共同墓地で見かけた不審な人影がアニーとは思えず、アルハレムは心から安心した表情となって頷く。
「そうだな。これでアニーとミレイナが出会うという最悪な展開は避けられたわけだ」
アニーとミレイナ。
自分こそが絶対に正しいと考えていて、自分に意見する者や邪魔する者を完膚なきまでに叩きのめすこれ以上なく自分勝手な二人が出会ったら、その瞬間に二人が出会った場所は戦場と化すだろう。そんなことにならなくてよかったと心から思うアルハレムだった。
「……ところでさ。リリア? さっきからずっと気になっていたんだがお前、その格好は何なんだ?」
アルハレムがリリアの服装に目を向けて訊ねる。
リリアはいつもの帯だけの衣装の上にエプロンを着ていた。リリアが新しく着ているエプロンは、今レイアがメイド服と一緒に着ているのと同じもので、昼間のうちにサキュバスがライブに頼んで譲って貰ったものだった。
「あら? ようやく聞いてくれたのですね、アルハレム様。それで私の衣装がどうかしましたか? 似合っておりませんか?」
エプロンの裾をつまみ上げながら首をかしげるリリア。
実質、裸の上にエプロン一枚を纏っているだけのリリアの姿は、不思議と普段の彼女の姿よりも男の情欲を刺激する卑猥なものに感じられた。
「いや、似合っているけどさ……。何でいきなりエプロンを着ているんだ?」
「イヤですね。私だってたまには違う格好をしますって♪ いつも同じ格好でしたらアルハレム様も飽きてしまうでしょ? ……実際、レイアがメイド服を着たらアルハレム様、思いっきり注目してましたし。ええ、私なんか全く無視してライブ様と一緒に大絶賛してましたし」
「………」
そう言うとリリアはメイド服を着たレイアに鋭い視線を向ける。それを見てアルハレムは、このサキュバスが昼間の自分がメイド服姿のラミアだけを誉めたことに嫉妬を覚えていたことに気づく。
「い、いや……、あの時は別にリリアを無視していたわけじゃ……」
「で、す、か、ら♪ 私も少しだけ違う格好になってみました♪ アルハレム様もお気に召したようですし、今夜はこの姿でご奉仕させてもらいますね♪ ご、しゅ、じん、さ、ま♪」
「………!」
リリアが甘えた声を出してアルハレムの右腕に抱きつくと、それに対抗してレイアもアルハレムの左腕に抱きつく。
……そんな三人の姿は、墓荒らしを捕まえにきた冒険者達というよりも、夜の共同墓地で情事に興じている恋人達のようだった。
「お、おい!? リリアにレイア! いい加減にしろ。俺達は遊びに来たんじゃなくて墓荒らしを捕まえに……」
「卑猥です!」
アルハレムがリリアとレイアを注意して引き離そうとした時、突然聞き覚えのある声が共同墓地に響き渡った。
「この声は……?」
「ちっ! 来ましたね、邪魔者が」
「………!」
アルハレム達が声がした方を見ると、そこには墓石の上に立って腕組みをしているミレイナの姿があった。墓石の上に立つ神官戦士の戦乙女は、体を密接させている魔物使いと魔女二人を指差すと、親の仇を見るような目で叫ぶ。
「夜の墓地でそんな情事に興じるなんて……! この場所に眠る死者の方々に対して不謹慎だとは思わないのですか!?」
(ぐっ!? こ、今回ばかりは何も言い返せない……!?)
ミレイナの全くの正論にアルハレムは何も言い返すことができず、ただ目をそらすことことしかできなかった。