「あの、アルハレム様? その不審な人影ってもしかして……」
「い、いや。いくらあの女が執念深いといっても、流石にここまでは追ってこないだろ?」
リリアの言葉をアルハレムは首を横に振って否定するが、その顔には冷や汗が流れていて違ってほしいという気持ちが表れていた。
「アル? あの女って誰のことだ?」
「………?」
「いや、冒険者になって旅を始めたばかりの時にアニーっていう俺と同じ冒険者になった戦乙女と出会ってな。そいつがかなり厄介な性格をしていたんだよ」
話についていけていないライブとレイアにアルハレムは旅先で出会った戦乙女の冒険者、アニーのことを話した。
旅を始めて最初に立ち寄った街で、酒に酔ったアニーが街の住人に危害を加えようとしたこと。
それを止めると何故かアニーと戦うことになり、一撃で倒されてしまったこと。
リリアを仲間にした後にアニーと再会して、いっそ清々しいくらい自分勝手な性格をしたアニーに逆恨みをされた挙げ句、再び戦うことになって二回目の戦いでは勝てたこと。
話をしているうちにライブは苦笑を浮かべ、レイアはここにはいないアニーに怒りを覚えて険しい表情となる。
「それは災難だったな……。何と言うか、典型的な力のない人間を見下す戦乙女のようだな。それにしても戦乙女と戦ってよく勝てたな? やっぱりリリアさんの協力があったからか?」
「ん? まあ、そんなところかな……」
アニーと戦って勝てたのは、リリアの種族特性によって彼女の輝力を分け与えてもらい身体能力を強化したからなのだが、アルハレムはそのことは話さずにいた。
本来は女にしか使えない輝力をリリアの協力があったとはいえ男であるアルハレムが使った。そのことが知られたら余計な騒ぎが起こるかもしれない。最悪、女にしか輝力が使えないことに不満を持つ男がリリアを狙う可能性だって否定できなかった。
「そうか。アルは魔物使いの冒険者なのだから、仲間にした魔女のリリアさんの力も自分の実力のうちってことなんだろうな」
長年の付き合いのライブはアルハレムが何かを隠していることに気づきながらも、それに気づいていないふりをした。
「まあな。それで話を戻すけど、ここでは奇妙な墓荒らしが続いていて、その犯人を見つけて墓荒らしを辞めさせればライブの悩みもなくなって、俺もクエストを達成できるってことだよな?」
アルハレムが確かめるように聞くとライブは少し考えてから首を小さく横に振る。
「大体はあっているが少し違う。……実はな『ミレイナ』が墓荒らしを探すと息巻いているんだ」
「いっ!? ミレイナが?」
「ミレイナ? 一体誰ですか?」
「………?」
『……………』
リリアとレイアが首をかしげて訪ねると、アルハレムとライブは疲れたような表情となって視線を交わした後、ライブがミレイナという人物について説明をする。
「ミレイナというのはこの街の教会に勤めている神官戦士のことですよ。真面目で、正義感が強くて、素直でとても優秀な戦乙女でもあるんですが、真面目すぎるせいで一つのことに集中すると視野が狭くなって他の人の言葉が聞こえなくなることがあるんですよね……」
「あと正義感が強すぎるせいでどんな些細な揉め事でも嗅ぎ付けて勝手に首を突っ込んで、ついでに言えば素直すぎるせいで子供の頃に神官戦士の親に教えられた『神官戦士の行動は全て正義のためにある』という言葉を変に覚えて『自分の行動は全て正義である』と思い込んでいるんだよな」
アルハレムが説明に補足すると、ライブも同意見とばかりに苦笑を浮かべて頷く。
「そうだよな。おまけに戦乙女の力に目覚めてからはどんなことも力ずくで解決するようになって、とどめに『手加減』って言葉を全く知らないんだよな。そのせいでミレイナが首を突っ込むと騒ぎが必ず大きくなるんだよな」
「そうなんだよな……。俺も何回かミレイナが大きくした騒ぎに巻き込まれたけど、あれは酷かった……」
『はぁ……』
アルハレムとライブも、ミレイナが起こした騒ぎに巻き込まれた記憶を思い出して揃ってため息を吐く。
「いえ、二人揃って何ため息を吐いているんですか? というか何ですか、そのミレイナっていう女は? 話を聞く限りではあのアニーと同じくらい厄介ではないですか?」
「そうですね……。俺もそう思いますけど、ミレイナは神官、教会の人間でもあるから強く言えないんですよね」
疲れはてたような顔でリリアに答えるライブにアルハレムは納得したように頷く。
「つまりミレイナが騒ぎを大きくする前に墓荒らしを犯人を捕まえてほしい。ライブはそう言いたいんだな?」
「そうだ。あのミレイアのことだ。下手をしたら共同墓地に火を放つぐらいのことはする……」
「ライブ様! 失礼します!」
ライブがそこまで言ったところで、応接間の扉が勢いよく開き一人の女性がアルハレム達のいる応接間に入ってきた。