「………ん?」
その日の朝。アルハレムは寝返りを打とうとしたが体が動かない違和感から目を覚ました。
目を覚ましたアルハレムが自分の身体を見てみる。するとまずレイアが彼の右腕に蛇の下半身ごと絡みついて抱き枕にしており、次にルルが左腕に自分の頭を乗せて枕にしていて、最後にリリスが下半身に抱きついて眠っていたのだ。
続けてアルハレムは周囲を見てみる。今彼らがいるのはエターナル・ゴッデス号にある寝室の寝台の上で、他の仲間達も寝台の上で眠っている。
アルハレム達は全員、服を着ていない裸で、寝台の下の床には全員分の衣服が脱ぎ捨てられていた。いつものように昨夜、主人である魔物使いの青年と肌を重ねていた魔女達は極上とも言える女体を惜しげも無く晒しており、そしてその中に混じってアルハレムの実の妹であるアリスンが服を着ていない裸でいた。
当然実の妹とは肌を重ねていないのだが……。
(年の近い妹と裸で寝て、それに慣れるだなんてどうなんだろうな……)
「……もう朝ですか?」
年齢が一つしか違わない実の妹と裸で一緒に眠ることに慣れてしまっている自分にアルハレムが疑問を感じていると、彼の下半身に抱きつく形で眠っていたリリアが目を覚ます。
「おはようございます、アルハレム様」
「ああ。おはよう、リリア。……他の皆はまだ寝ているみたいだな」
「……いえ、そうでもないようですよ?」
挨拶を返したアルハレムの言葉にリリアはそう答えると寝室の入口の方に視線を向けた。
「何?」
「………!」
リリアの視線につられてアルハレムも寝室の入口を見ると、入口の扉が開いていてそこから金色の何かが横切ったように見えた。
「メイさんはすでに起きていたようですね。ほら」
寝室の入口の前には水が入った小壺と数個のコップがのせてあるお盆が置かれている。それは以前、夜に激しく肌を重ねて朝を迎えたアルハレム達の為にメイが用意した物と同じであった。
つまり先程アルハレムが見た寝室の外を横切った金色の何かはメイの尻尾で、以前と同じように水を持ってきたメイは自分の主人が目を覚ます気配を感じて慌てて逃げるように寝室を出たということになる。
「まったくメイさんは……。昨日の夜も参加しなかったし、いい加減慣れてくれてもいいものなんですけど……」
メイが走り去って行った寝室の外を見ながらリリアがため息を吐く。
過去に暴走した記憶を持つメイはその罪悪感から他者との距離を置いている。その上彼女は性に対する耐性が低い為、アルハレムとリリア達が肌を重ねている夜や夜の余韻を漂わせている朝は普段以上に主人を初めとする仲間達と距離を取り、それを「パーティーのお色気担当」を自称するリリアは不満に感じていた。
「そうだな……。その為にも今回のクエストは成功させないとな」
皆に慣れてほしいという点にだけ同意するアルハレムはリリアの言葉に頷く。今回のクエストはメイに他者と打ち解けてもらうことが大きく、その為にクエストを成功させることを改めて決意すると、魔物使いの青年はまずまだ眠っている仲間達を起こすことにした。
☆★☆★
成鍛寺でコシュからクエストを達成する為に祭りを行うことを提案された日からすでに十日。今日までアルハレム達は祭りを実行する為の準備に取りかかっていた。
まず最初に行ったのはメイの説得で、初めは人前に出る事を躊躇っていたメイであったがアルハレムの根気良い説得に最後には祭りに参加する事を約束してくれた。
次に行ったのがメイの事情を知る人達への祭りの呼びかけ。隠れ里の猫又と霊亀の一族とエルフにコシュが用意した招待の手紙を持って祭りに参加してもらうよう頼みに言ったのだ。
移動はレムが操艦するエターナル・ゴッデス号のお陰でさほど時間がかからず、猫又と霊亀の一族はアルハレムの頼みならばとすぐに祭りへの参加を了承してくれたのだが、逆にと言うかやはりと言うべきかエルフ達への呼びかけは中々うまくいかなかった。
他種族を内心で下に見る傾向がある上に二百年前のメイの暴走の原因について認めたくないエルフ達は、最初はアルハレム達の呼びかけを拒否……というより成鍛寺の使者である魔物使いの青年とその仲間達を自分達の領主に合わせようとしなかったのだ。
しかもこの時アルハレム達の対応したのがリンで、メイを解放した時のやり取りもあってアルハレム、正確には彼の仲間の魔女達とエルフ達の間で一触即発な空気が出始めたところで領主の側近であるリョウが現れて幸いにもリリア達魔女とエルフ達の戦いは避けられた。その後、リョウの案内でエルフの領主サンと謁見する事ができた魔物使いの青年達は、サンからエルフ達の祭りの参加を約束してもらえたのである。
リンを初めとする一部のエルフの反応に若干の不安があるものの、アルハレムのクエストを達成しメイが他者と触れ合う為の祭りの準備は着々を進んでいた。