魔物使いのハンドレッドクエスト   作:小狗丸

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第二百六十話

『え……?』

 

 クエストブックに目を通したコシュが奇声を上げた瞬間、アルハレムにリリアとツクモは思わず同時に困惑した声を漏らした。しかし成鍛寺の住職は全く聞いておらずクエストブックのページを凝視しており、その様子に何かただならぬものを感じた魔物使いの青年はサキュバスの魔女と猫又の魔女と顔を見合わせて小声で話す。

 

「(なぁ、コシュさん一体どうしたんだ?)」

 

「(いえ、私にもちょっと分かりません……)」

 

「(何やら物凄く驚いているようでござるが……。アルハレム殿? クエストブックには一般には知られていない驚愕の事実みたいなものが記されているでござるか?)」

 

「(いや、そんなものは記されていない。……でも、だったら何でコシュさんはあそこまで驚いているんだ?)」

 

「………!!」

 

 リリアとツクモに聞いてみても分からず、アルハレムが横目で見るとコシュは驚愕の表情でクエストブックを見ながら固まっていた。すると魔物使いの青年の腰に差してあるインテリジェンスウェポンのアルマが話しかけてきた。

 

「とりあえずこのままでは話が進まないので話しかけたらどうですか? マスター?」

 

「やっぱりそれしかないか。あの? コシュさ「アルハレム殿ぉぉーーーーーーー!!」……え?」

 

 アルマの言葉に従ってコシュに話しかけようとしたアルハレムだったがいきなり成鍛寺の住職が大声を上げた。

 

「こ、コシュさん? 一体どうしました?」

 

「どうしたもこうしたもありません! あ、アルハレム殿! こ、ここ、これれ、れははは……!」

 

 アルハレムに聞かれて震える声のコシュは、先程まで自分が見ていたクエストブックのページを魔物使いの青年に向けて震える指でページのある一点を指した。そこには次のような文章が記されてあった。

 

 

【クエストそのにじゅう。

 まもののおともだちに、にんげんのまちのおしごとをてつだわせてください。

 いっしょにおしごとをするとなかよくなれますからねー。

 それじゃー、あとごじゅうきゅうにちのあいだにガンバってください♪】

 

 

「? 今回のクエストの文章ですけど、それが何か?」

 

「何を呑気な事言っておられるかっ!」

 

 アルハレムが言う通り、コシュが指差しているのは今回のクエストの内容を知らせる文章だった。しかし何故コシュがその文章を見て驚愕しているのか分からずアルハレムが訊ねると、成鍛寺の住職はその場に立ち上がって怒鳴るような大声で答える。

 

「よいですか、アルハレム殿!? ここには『クエストそのにじゅう』と愛らしくも神々しい文字で記されておる! それはつまり! それはつまり……このクエストが無事に達成されれば我らが女神イアス様が御降臨されると言う事ではありませんかぁーーーーー!!」

 

『『………!?』』

 

 咆哮とも言ってもいいコシュの叫びに成鍛寺の本堂が振動し、アルハレムとリリアとツクモは思わず両手で耳を塞ぐ。

 

(忘れてた……。そういえばクエストを十回達成するごとに女神イアスが現れるんだったな。それと……)

 

 鼓膜の痛みに顔をしかめながらアルハレムはクエストブックのルールを思い出し、そして同時にある事に気づいた。……気づいてしまった。

 

(初めてコシュさんやこの成鍛寺の僧侶達に会った時、どこかで会ったような奇妙な感じがしたんだけど、その感じの正体がやっと分かった)

 

 常日頃から心身共に修行を重ねているとはいえ、リリアを初めとする絶世の美女と呼んでも過言ではないリリア達を前にしても何の反応も見せない成鍛寺の僧侶達。

 

 境内のいたる所に作られた女神イアスの像。

 

 十回目のクエストを達成した時に女神イアスより与えられたインテリジェンスウェポンのアルマを強い羨望の目で見るヨウゴ。

 

 そして今、女神イアスが降臨するかもしれないと知って今までの厳格な印象をかなぐり捨てて興奮を露にしているコシュ。

 

 そこまで考えたところでアルハレムの脳裏に、自国の王子であり勇者の先輩である一人の男の顔が浮かび上がった。

 

(間違いない。コシュさんを初めとしてこの成鍛寺の僧侶達、女神イアスを信仰するあまり性癖にまで影響が出たロリコ……幼女趣味者達だ)

 

「アルハレム殿! 今回のクエスト、必ず成功させましょうぞ! このコシュ……否! 成鍛寺の僧侶一同、協力を惜しみませんぞ!」

 

「え? ……ああ、お願いします……って、成鍛寺の僧侶一同?」

 

 満面の笑みを浮かべるコシュにやや引きながら返事をしようとしたアルハレムだったが、その途中で成鍛寺の住職の言葉に引っ掛かりを感じて首を傾げた。

 

「はい! 全員、今からでもやる気に満ちておりますぞ」

 

「それってどういう……うわっ!?」

 

 アルハレムがコシュの言葉に怪訝な表情を浮かべてふと後ろを振り向くと、そこにはヨウゴを初めとする数十人もの成鍛寺の僧侶達がすでに集まってコシュ同様の満面の笑みを浮かべており、それを見てリリアとツクモも驚いた顔を浮かべた。

 

「これは……」

 

「い、いつの間に……。このツクモさんに気配を感じさせないとは……」

 

『『頑張りましょう! アルハレム殿!』』

 

 ヨウゴ達成鍛寺の僧侶が同時にやる気に満ちた声を出し、それを聞いたアルハレムは虚ろな目になって天井を見上げた。

 

(……ああ、また知り合いに馬鹿が増えた。それも大量に……)


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