「アイタタ……。全く、本当に酷い目にあいましたよ……」
「どう考えてもお前の自業自得だと思うが……」
あの朝の目覚めからしばらくした後、寝室で身体をさすりながら呟くリリアにいつもの服に着替えたアルハレムが呆れた表情となって言う。
リリアが言う酷い目とは朝の出来事でメイの尻尾で吹き飛ばされたことで、あの後サキュバスの魔女は裸のまま大の字となって気を失ってしまい、色々と目のやり場に困る状態だったのだが……それはまた別の話である。
ちなみにアリスンや他の魔女達は食事をとるために他の部屋へ行っていて、今この寝室にいるのはアルハレムとリリアと、魔物使いの青年の腰に収まっているインテリジェンスウェポンのアルマだけであった。
「ふむ……。それにしてもメイさんの罪の意識もかなりのものですね。まさかあそこまで私を拒絶するぐらい心に壁を作っているだなんて……」
「いや、それとこれとは別の問題だと思うぞ」
「私もマスターと同意見です」
ようやく身体の痛みがひいたリリアが考えるように呟くと、それをアルハレムとアルマが否定する。
リリアは朝、メイの乳房を後ろから鷲掴みにした際吹き飛ばされた事を「過去の出来事から他人との壁を作っていて、それで自分を拒絶した」と考えているのだが、アルハレムと事情を聞いたアルマは原因がそれとは違う事に気づいていた。しかしサキュバスの魔女は魔物使いの青年とインテリジェンスウェポンの言葉を聞かずに自分の言葉を続ける。
「これは出来るだけ早く罪の意識を何とかする必要がありますね。あのままではメイさんも辛いでしょうし……」
「随分とメイを気にしているんだな、リリア?」
「当然ですよ」
メイのことを心配するリリアの言葉にアルハレムが意外そうな顔をすると、サキュバスの魔女は心外そうに胸を張ってその豊かな乳房を揺らした。
「確かに私は基本アルハレム様以外はどうでもいいですけど、それでも私はアルハレム様の筆頭奴隷ですからね。他の奴隷達の身体状態や精神状態に気を配る義務があるのです」
「ちょっと待て。筆頭奴隷って何だよ? 俺は奴隷なんて連れていないぞ?」
リリアの口から聞き慣れない何やら聞き捨てならない単語が聞こえてアルハレムが思わず突っ込む。
「何を言っているのですか? 私達アルハレム様と契約した魔女は皆アルハレム様の奴隷。そして一番最初にアルハレム様と契約をした私が筆頭奴隷なのは当然の事なのです」
さも当たり前のように言うリリアにアルハレムは頭が痛いといった顔をする。
「それだったら普通に仲間って言えばいいだろ? その奴隷という呼び方は人聞きが悪いから止めてくれ」
「そうですか? それでしたら性……」
「それも止めろ!」
アルハレムの抗議にリリアが言い直そうとするが、それを魔物使いの青年は大声を出して遮った。するとサキュバスの魔女は首を傾げた。
「何故でしょうか?」
「何故って……。それだと何て言うか……俺がお前達を寝台で誑かして戦わせる最低な男のような気がして……」
「その通りな気がしますが」
「うぐっ!?」
首を傾げるリリアに目を逸らしながらためらいがちに言うアルハレムであったが、腰に差していたインテリジェンスウェポンの横槍に自覚があったのか胸を押さえた。
「……ふむ。まあ、それは今更なのでいいとして、問題はメイさんですよね」
胸を押さえたアルハレムをしばらく見た後リリアは話をメイの件に戻そうとする。魔物使いの青年としては今のサキュバスの台詞に抗議したかったが、それだと話が進まないのでとりあえず黙って聞くことにした。
「メイさんの罪の意識を取り除く……それにちょうどピッタリの『イベント』があるんですよね、アルハレム様?」
「イベントじゃなくてクエストなんだけどな……。まあ、そうだな」
リリアは自分の主人が持つ一冊の本、クエストブックを見て言うとアルハレムはそれに頷いて答えるのだった。