魔物使いのハンドレッドクエスト   作:小狗丸

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第二百五十二話

「これ、は……!?」

 

 最初に異変に気づいたのはアルハレムであった。

 

 魔物使いとそれに契約した魔物は魂と魂で繋がっていて、魂の繋がりからアルハレムは焼け付くような怒りと憎悪を感じて反射的に自分と契約している魔女達に視線を向けると、リリアを初めとする魔女達は静かにリンの方に視線を向けていた。だがその魔女達のエルフの少女を見る目は、今から敵に牙を突き立てる獣のような目であった。

 

「あ、貴女達……?」

 

 リリア達の目を見たアリスンが思わず呟く。魔女達の怒りと憎悪を垣間見た彼女は本能で危険を感じ取った為顔色は青く、身体もわずかに震えていた。

 

 だがしかし、戦乙女の少女の隣にいるエルフの少女は目の前にいる危険に全く気づいていないらしく……。

 

「何を見ているのよ! そんな所でサボっていないで周りにいる魔物を倒しに行きなさいよ、この役立たず!」

 

 と、リンはリリア達の怒りに油を注ぐ言葉を言い、それが決定打となった。

 

『『ーーーー!』』

 

 まるでリンの言葉を合図にしたかのように魔女の力によって凶暴化したリリア達が一斉にリンとアリスンに飛びかかった。

 

「アリスン! リン! ……くっ!?」

 

 リリア達がリンとアリスンに飛びかかったのを見てアルハレムが叫んだ瞬間、彼の頭上に光の線が降り注いだ。間一髪で避けて殺気が感じる方に視線を向けると人の形をした光の魔女がこちらを睨んでいた。

 

「全く! ただでさえ厄介なのに! 彼女は俺達の邪魔をしに来たのかよ!」

 

 アルハレムが苛立たしげに舌打ちする。「彼女」というのは当然リンの事で本人の耳にも聞こえているだろうが、もはやどうでも良かった。

 

 これだけの迷惑をかけられたのだ。これぐらいの愚痴くらいは言ってもいいだろう。

 

「というか生きているんだろうな……って、あれは?」

 

 魔女はまだダメージが残っているようですぐに次の攻撃に移れないらしく、アルハレムは魔女に注意しつつアリスンとリンの方にと視線を向けた。するとそこにあったのは、この場にいるアルハレムと契約している八人の魔女達が二手に分かれて相対している姿だった。

 

 魔女の力の影響とリンの暴言によって凶暴化したのはレイア、ルル、シレーナ、ウィンの四人。その四人をリリア、ツクモ、ヒスイ、アルマの四人が押しとどめていた。

 

 怒りのままに突撃しようとするレイアをアルマが彼女の両腕を掴んで止めて、

 

 凶刃を振るおうとするルルの剣をツクモが小刀で受け止め、

 

 空から襲い掛かろうとするシレーヌを同じく空を飛んだレイアが牽制して、

 

 ドラゴンの力を発揮しようとしたウィンをヒスイが霊亀の力で作り上げた結界で閉じ込める。

 

 魔女の力によって全員凶暴化したと思われたリリア達であったが、リリアとツクモ、ヒスイにアルマの四人はなんとか理性を保っていたらしく、凶暴化した他の四人からアリスンとリンを守っていた。

 

 目の前で魔女達が激突するのを見てリンも今更ながらに現状を理解したようで顔を青くする。

 

「あ、貴女達! 私を誰だと思っているのよ!? やっぱり魔女なんて……ぶぎゃっ!?」

 

 魔女の力によって凶暴化したレイア、ルル、シレーナ、ウィンに向かって叫ぼうとしたリンであったが、矢のような勢いで伸びてきた鞭のようなものよって顔を強打されて吹き飛ばされる。

 

「これ以上私達を怒らせるな!」

 

 リンを吹き飛ばしたのはリリアの尻尾だった。空からシレーナを牽制しながら尻尾を伸ばしてエルフの少女の顔を強打したのだ。

 

 リリアに吹き飛ばされて気絶したリンは前歯が数本に鼻の骨が折れている悲惨な状態であった。しかしサキュバスの魔女がエルフの少女を吹き飛ばしたのは、これ以上彼女が暴言を言って凶暴化を促すのを止めるための、手荒くはあるが必要な行動であり、この場にいる者でリリアを責める者はいなかった。

 

「……ふん。自業自得よ」

 

 アリスンもリリアの行動を必要であったと思っていたようで、気絶しているリンを見下ろして吐き捨てるように言うと、彼女を担いで後ろに下がるのであった。


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