魔物使いのハンドレッドクエスト   作:小狗丸

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第二百五十話

「ーーーーーーーーーー!!」

 

 アルハレムが武器を構えたのを見て人の形をした光、封印されていた魔女が何とも形容しがたい叫び声を上げる。そしてそれと同時に魔女の背中から生えている光の線が一度空に伸びてから魔物使いの青年に目掛けて急降下する。

 

「当たるか!」

 

 空から降ってくる光の線をアルハレムは回避して、光の線によって抉られた地面に視線を向ける。

 

「あの威力……レムが操る石像の拳と同じくらいか。……そういえばリリアも似たような攻撃をしていたな」

 

 魔女の攻撃の威力を分析しながらアルハレムは、いつか見たリリアの戦いと最初にレムと戦った時の事を思い出す。

 

「これなら何とか躱せるな……!」

 

 アルハレムはそう言うと魔女の光の線を慎重に避けながら魔女との少しづつ距離を詰めていく。事実、彼の言う通り魔女の光の線の動きはひどく単調であった。

 

 魔女の背中から生えている光の線は全部で九本。攻撃する時はその内の三、四本を一度空に伸ばしてから急降下させるのがほとんどで、偶に横薙ぎに振るうこともあるが自身の視界が遮られるのか狙いが大雑把となる。

 

 確かに地面を抉る威力は一般人から見れば驚異であるが、アルハレムも九人の魔女を従えて何度も戦いをくぐり抜けて来た冒険者だ。正直、これくらいの威力の攻撃なら仲間達だって繰り出せるし、威力に目を奪われなければ避けるのは難しくなかった。

 

(なんだかやけに簡単に近づけたな? ……まさか罠でもあるのか?)

 

 魔女の光の線を避けながら輝力で強化された身体能力ならもう本体に攻撃を仕掛けられる距離まで近づいた所でアルハレムは思わずそう考えた。

 

(あまりにも簡単すぎる。考えてみれば魔女は最初の位置から全く動いていないし、攻撃も中途半端だし、もしかしたらワザと単調な攻撃を繰り返して何か俺に必殺の一撃を与える機会をうかがっているのか?)

 

 そんな考えが脳裏に浮かんだ途端、アルハレムの額に嫌な汗が一筋流れ、前に進むのがためらわれる。

 

(……だけど行くしかない、か)

 

 戦いが始まる前にリリアから分けてもらった輝力もすでに半分消費している。このまま攻めずにいたら輝力も尽きて、それこそ魔女を攻撃することも、あの光の線を避けることも出来なくなる。

 

 それならば例えそこに罠があったとしても、前に出てこの反撃の機会を活かすしかない。

 

 そしてアルハレムが覚悟を決めるのと同時に魔女の背中にある光の線が三本、空に伸びてから魔物使いの青年を目掛けて急降下してきた。

 

「今だ!」

 

 タイミングを計って前方に駆け出して光の線を避けたアルハレムは、そのまま輝力で強化された脚力をもって一瞬で魔女との距離を詰めると錫杖を振るった。高速で振るわれた錫杖はそのまま魔女の胴体に吸い込まれるように向かって、そして……。

 

「ーーー!?」

 

「……え?」

 

 アルハレムの振るった錫杖は魔女の胴体に命中し、魔女は身体を「く」の字に曲げて吹き飛び、二度三度と地面を跳ねてようやく動きを止める。そして攻撃を仕掛けた当人であるアルハレムはあっさりと吹き飛ばすことができた魔女の姿を見て思わず呆けた声を出した。

 

 魔女が単調な攻撃しかしてこない事から「何か罠があるのでは?」と考えていたアルハレムだったが、今の地面に倒れている魔女を見て別の考えが思い浮かんだ。

 

 魔女の周囲の魔物を凶暴化させる力は確かに驚異だ。あの光の線も威力だけを考えれば恐ろしいと思う。

 

 だけど実際に戦ってみた魔女の実力は……。

 

「この魔女……素人なのか?」

 

 アルハレムが信じられないといった表情で呟く。だが防御するそぶりすら見せず、受身も取らない様子を見るとそうとしか思えない。

 

 どうやらこの魔女は特殊で強力な能力こそ持ってはいるがそれ以外、特に戦闘能力は非常に低いようだった。


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