魔物使いのハンドレッドクエスト   作:小狗丸

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第二十四話

 ビスト伯の屋敷に辿り着いたアルハレム達三人は、アルハレムが門番にマスタノート家の家紋が刻まれた指輪を見せると、すぐに屋敷内の応接間に通された。そしてしばらく三人が待っていると応接間に屋敷の主であるビスト伯がやって来て、久しぶりに会う友人を笑顔で迎えてくれた。

 

「やあ、久しぶりだな。アル」

 

 アルハレムを子供の頃のアダ名で呼ぶビスト伯、ライブ・ビストは綺麗に切り揃えた金髪で端正な顔に眼鏡をかけており、上等な仕立ての服を身に纏う姿は正に若き貴族といえた。

 

「いきなり押し掛けてきてすまなかったな、ライブ」

 

「気にするな。アルだったら大歓迎だ。でも確かに驚いたな。突然アルが現れたこともそうだが……あのアルが家族以外の女性を連れてきて、しかもウチに来るなり『メイドの服を一着貸してほしい』と言うだなんて。最初に聞いた時はアルに何があったのかと思ったぞ」

 

 ライブはからかうように言うとアルハレムの隣、ラミアの姿でメイド服を着ているレイアを見る。

 

 ライブの言う通りアルハレムは、人間からラミアに戻った時にレイアに着るものがないからと屋敷の人間からメイド服を一着借りて、それを彼女に着るように命じたのだった。後、屋敷に来る前に街でレイアが着ていたリリアの衣装は、すでに本人に返してある。

 

「重ねてすまないな。メイド服は後で返すからしばらく貸してくれないか?」

 

「いいって、メイド服一着くらい。それにしてもラミアの彼女、中々似合っているじゃないか?」

 

「そうだな。俺もそう思う」

 

「………♪」

 

 ライブとアルハレムにメイド服姿を褒められてレイアが嬉しそうに顔をほころばせる。そんな会話をしている主とその友人にリリアが手を挙げて訊ねる。

 

「あの~。アルハレム様? ビスト伯? ちょっと聞いていいですか?」

 

「どうした? リリア?」

 

「ん? どうかしましたか?」

 

「いえ、あの……さっきから普通に会話していますけど……ビスト伯は気にならないのですか? 私とレイアって、見て分かるように魔女なんですよ?」

 

 リリアとレイアは魔女を姿を現していたが、ライブは特に驚いた様子をみせず、極めて自然体で話をしていた。普通の人間ならば魔女の姿を見ればもっと驚いて取り乱すものだが、この貴族の反応は予想外だった。

 

「まあ……確かに少し驚きましたけど、アルの友人なら悪い魔女ではないのでしょう? それにこうして話だってできるのですから、少し背中に翼が生えていて下半身が蛇なだけの女性じゃないですか?」

 

「悪い魔女ではない? 少し背中に翼が生えていて下半身が蛇なだけ? え? ええ~?」

 

「………?」

 

「リリア、言っただろう? ライブは二人を見ても驚かないって。……リリアとレイア、ちょっとこの部屋を見てみろ」

 

 何でもないように言うライブの言葉に調子が狂うリリアとレイアにアルハレムは今いる部屋を見てみるように言う。

 

「部屋を? ……………何ですか? この部屋?」

 

「………?」

 

 アルハレムに言われてリリアとレイアが部屋を見回してみると、いくつか気になる点があった。

 

 部屋自体は全く可笑しいところはないのだが、部屋に飾られている調度品。一見すると貴族の屋敷に相応しい高度な芸術品に見えるのだが、全てが動物の角や耳、尻尾を生やした女性を題材にしたものばかりで、逆に普通の人間や景色を題材にした調度品は一つもない。

 

「……何と言うか独特の趣味ですね? そういえば、ここに通される時に廊下にも似たような絵画等があったような気も……」

 

「気に入ってくれましたか? いやぁ、ここまで集めるのに本当に苦労しましたよ。中々、俺の琴線に触れる作品が見つからなくて……」

 

 リリアの感想にライブは若干照れながら誇るように答える。

 

「リリア、レイア。このライブはな、普通の人間の女性には全く興味がなくてな。獣の特徴を持つ女性……『獣娘』とでも言えばいいのか? それにしか愛情を懐けないんだよ」

 

「そのとおり!」

 

 アルハレムの解説に反応してライブは興奮気味に顔を赤くすると立ち上がる。

 

「アルの言う通りだ! 俺は獣娘を愛している! 獣娘こそが獣の野生、愛らしさ、癒しを兼ね備えた理想の女性! 俺は、俺は獣娘しか妻にするつもりはない! ただの人間の女とのお見合いなんざくそ食らえだ!」

 

「………」

 

「………」

 

 今までの冷静な態度をかなぐり捨てて腹の奥底から絶叫するライブに、リリアとレイアは何も言うことはできなかった。ただ一人、アルハレムだけは慣れているのか、特に驚くこともなく叫ぶ友人を見たあと自分の仲間の魔女二人に視線を向ける。

 

「こういう奴なんだよ」

 

「……よく分かりました。このような方でしたら私達を見ても驚いたりしませんね」

 

「………」

 

 アルハレムの言葉にリリアとレイアは納得して頷く。獣の特徴を持つ女性、獣娘しか愛せない男ならば、獣娘に似た姿を持つ魔女を恐れることはないだろう。

 

「あれ? それでしたら私とレイアもビスト伯の好みに入るのですか?」

 

「いや、それはない。ライブの好みは、犬や猫みたいな体毛が豊かな獣娘だけみたいだから」


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