封印されている魔女を自由にすることを改めて決意したアルハレムは。まず契約の儀式の魔方陣を作るために自分が持つ四本の神術の短剣を石の社を中心にした四方の地面に突き刺した。
四本の短剣を地面に突き刺して合言葉を呟くと魔方陣が完成し、石の社が目に見えない壁に囲まれる。この壁の中に入ればもう仲間の助けは得られず、たった一人で魔女と戦うことになる。
「魔方陣はこれでよし。次は……リリア」
「はぁい♪ かしこまりました♪ ……ん」
アルハレムに呼ばれるとリリアは、主人の戦いの直前だというのに全くの緊張を感じさせない明るく甘い声で返事をして、次に自分の唇を魔物使いの青年の唇に重ねた。
そしてそのままリリアはサキュバスの種族特性を使って自分の内にある輝力をアルハレムに送り、それによって魔物使いの青年は本来であれば一部の人間の女性と魔女にしか使えない輝力を少しの間だけ使えるようにとなる。
リョウから魔女の解放に必要な術水を受け取り、契約の儀式の魔方陣を作るために作り、リリアから輝力を分けてもらって戦いの準備は完了した。
いよいよ封印されている魔女に戦いを、契約の儀式を挑もうとしたアルハレムであったが、その前に主人を激励しようとする、あるいはリリアに嫉妬をした他の魔女達にもキスをされて少しばかりの時間を取られたのは……まあ、ご愛敬である。
契約をした魔女達と妹に別れを告げてからアルハレムは魔方陣の中にと入り、中心にある石の社の中を覗く。社の中は人が二、三人が入るのがやっとなくらいの狭い空間で、先程も見た人間大の石像が中央に置かれていた。
コシュから聞いた話によるとこの石像こそが封印されて石となった魔女そのものだという。
下の石畳にはかつてリリアを二百年以上封印していた魔方陣と、恐らくは成鍛寺の僧侶達が置いたのであろうお供え物があった。アルハレムはそれらを確認すると、手に持っていた錫杖の石突を魔方陣の一部が描かれている石畳に叩きつけた。
契約の儀式を挑むにはまず、この魔女の封印を解除しなければならない。
魔女の封印を解除する方法は、石畳に描かれた魔方陣を破壊して、石像と化した魔女に取り付けられている封印の神術の道具を取り外すこと。
アルハレムがリリアから分けてもらった輝力を少しだけ使い、筋力を強化しての一撃で魔方陣が描かれた石畳を破壊するとその直後、社の中央にある魔女の石像から強い風が吹いたような気がした。
「……っ! 封印の片方が解除された影響か。後は石像にある封印の道具を取り外すだけらしいけど……これのことか?」
よく見ると魔女の石像の首には古ぼけた、しかし錆の一つもついていない鎖がまるで首飾りのようにかけられており、アルハレムがその鎖の首飾りを取り外した瞬間……、
アルハレムの視界が真っ白に染まった。