魔物使いのハンドレッドクエスト   作:小狗丸

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第二百三十一話

「ほうほう、なるほどなるほど……。私達がいない間にそんなお客様が来ていたのですか」

 

 コシュが猫又一族の隠れ里に訪れた日の夜。アルハレムが薬草作りを終えて家に帰ってきた仲間達にコシュとの会話の事を話すと、リリアが桃色の髪を揺らしながら納得の表情で頷いた。

 

 ちなみにコシュの姿は今ここにはなかった。

 

 昼間のコシュの話を聞いたアルハレムは「他の仲間達と相談をして明日に返事をする」とコシュに言って、今日のところはツクモに頼んで用意してもらったこことは別の客人用の家に泊まってもらっていた。

 

「それにしてもそのコシュとかいう人、お兄様にお願いをしに来るなんて、中々見る目があるじゃないの」

 

「……でも、少し、分から、ない、ところ、ある」

 

「………?」

 

 自分の兄が認められたのがよほど嬉しいのかアリスンが満足気に胸を張る横でルルが考えるように言い、グールの魔女の言葉にレイアが首を傾げる。そして疑問を抱いたのはラミアの魔女だけではなく、この場にいる全員の視線がルルに集まる。

 

「コシュ、という人、が、何とか、したい、魔物、他の魔物、を、凶暴に、する。それを、相手に、する、のに、何故、魔物使いの、我が夫、に、協力を? 最悪、ルル達、凶暴に、なって、暴れる、危険、ある」

 

「……………………!」

 

 仲間達の視線を受けてルルが途切れ途切れの言葉で自分の感じた疑問を口にすると、それを聞いた戦乙女と数名の魔女達がハッとした表情となる。

 

「……言われてみればそうですね」

 

「にゃ~……確かに一月前に戦った悪食蟻達はそれ以前の悪食蟻よりも凶暴だったようなそうでなかったような……?」

 

 ルルの言葉にヒスイが呟き、ツクモが過去の記憶を呼び起こしながら自信なさ気に言う。

 

「確かにそれだったら尚更、魔物使いのアルハレムに協力を求めるのは変な話よね?」

 

「そうだねぇ。万が一、ルルの言う通りアタイ達が凶暴化して暴れたら目も当てられないからねぇ」

 

 ツクモの言葉を聞いてシレーナが首を傾げて、ウィンがどこか面白がるように言う。

 

 ウィンが言うようにアルハレムが従えているのは、輝力を使うことができて魔物の中でも上位の実力を持つ魔女ばかりだ。それがもし凶暴化して暴走などしたら街の一つや二つ、すぐさま壊滅するだろう。

 

「しかしマスターはその危険性について既に気づいてますよ? そうですよね、ツクモさん?」

 

 それまでロッドの形態でアルハレムの腰に収まって話を聞いていたアルマが口を挟むと、仲間達の視線がアルマに集まって、次にアルハレムとツクモに向けられる。

 

「お兄様、ツクモ? そうなの?」

 

「ああ。俺もその事が気になってコシュさんに聞いてみたけど……」

 

「それは頼み事を聞いてくれなければ教えられないって言われたでござるよ」

 

 アリスンに聞かれてアルハレムと、コシュとの話し合いの場に一緒にいたツクモが答えた。

 

「それでアルハレム様は一体どうするおつもりなのですか?」

 

「……俺は、コシュさんの依頼を受けようと思う。これのこともあるからな」

 

 アルハレムはそう言うと自分の横に置いてあった本、クエストブックを手に取って開き、開かれたページに記された文章は皆に見せた。

 

 

【クエストそのじゅうきゅう。

 そとからやってきたひとのおねがいをかなえてあげること。

 わざわざたよってきたひとのおねがいはぜひきいてあげましょう。

 それじゃー、あときゅうじゅうにちのあいだにガンバってください♪】

 

 

 クエストブックに記された新たな試練。それが今まで話していたコシュからの依頼を解決する事であるのは明らかであった。


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