魔物使いのハンドレッドクエスト   作:小狗丸

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第二百二十七話

「それでツクモさん、他の皆はどこに行ったんですか?」

 

 アルハレムは今ここにいない妹や魔女達が何処にいるかツクモに聞いた。普段ならば朝目覚めた時から夜に眠る時まで側にいる彼女達だったが、今日は朝になるとすぐに何処かに行ってしまったのだ。

 

「ああ……。皆だったら調合場でござるよ」

 

「調合場?」

 

 魔物使いの青年は猫又の魔女が言った聞き覚えのない言葉に首を傾げる。

 

「そうでござる。そういえばアルハレム殿は知らなかったでござるか? 調合場は隠れ里の奥にある小屋で、猫又一族が仕事等で使う薬やら薬草は全部そこで作っているのでござるよ」

 

「そうなんですか。それで皆はその調合場で何を作っているんですか?」

 

「これでござるよ」

 

「それは……なるほど……」

 

 そう言うとツクモはアルハレムが愛用している煙管を見せて、それを見たアルハレムが全てを理解した表情となって納得した。その煙管は魔物使いの青年にとってとても重要なもので、それこそ彼の命を守る命綱と言っても過言ではなかった。

 

 今ここにいるツクモを初めとした九人の魔女(一人は魔女ではなくドラゴンメイドなのだが)と毎晩肌を重ねているアルハレムなのだが、本来魔女と肌を重ねるというのは自殺行為以外の何物でもないのだ。

 

 魔女は肌を重ねた際に相手の異性の【生命】を大量に吸収して、一度か二度肌を重ねるだけで相手を殺してしまう。アルハレムは固有特性によって超人的な【生命】を持っているため一度や二度リリア達と肌を重ねても死にはしないが、それでも九人の魔女達と連続で肌を重ねていればすぐに【生命】が尽きて死んでしまうだろう。その為に魔物使いの青年は、魔女達と肌を重ねる合間に猫又一族秘伝の薬草を煙管につめて煙草のように吸って【生命】を回復させていた。

 

 ちなみに一ヶ月前に採取した薬草はこの【生命】を回復させる薬草を調合するためのものなのだが、調合に使えるようするには乾燥させたり日の当たらない場所で寝かせたりする等の一ヶ月くらいかかる下準備が必要らしい。つまりここにいるツクモ以外の魔物使いの青年の仲間達は、一ヶ月の下準備が終わり薬草が調合に使えるようになったので早速、彼の為の薬草を作る為に調合場に行っているということだった。

 

「でもリリア達って薬草の調合とかできるのですか?」

 

「できるでござるよ。何しろ皆、必死になって薬草の調合法をツクモさんや隠れ里の猫又達に教えてもらって、特にリリアなんて薬草の調合法の他に、調合が凄く難しい超強力な媚薬の作り方も覚えていたでござるよ。だからアリスン殿もリリアが変なもの作らないようにと調合場に見張りに行っているのでござる」

 

「そ、そうなんですか……」

 

 猫又の魔女から自分の仲間達の異常なまでのやる気を聞かされて魔物使いの青年は僅かに顔をひきつらせた。

 

「アルハレム殿。リリア達が必死になって薬草の調合法を学んだ理由は当然分かっているでござろう?」

 

 突然ツクモが妖しい笑みを浮かべてアルハレムを見る。

 

 同じ種族の雌しか産まれない魔女は種の存続の為に性欲が非常に強い。それを九人も従えているアルハレムは猫又一族の薬草を使うことでなんとか平等に彼女達を愛することができていたのだが、以前使っていた薬草は一ヶ月以上前にすでに底をついていたのだった。

 

 命の危険を回避する為に、今日までアルハレムが一晩に肌を重ねられる魔女の人数と回数は激減しており、その事にリリアを初めとする魔女達は強い欲求不満を感じていた。

 

 リリア達が猫又達から薬草の調合法を学び、今も率先して朝早くから薬草の調合を協力しているのはつまり「そういうこと」なのであった。

 

「アルハレム殿……。今日は……寝かせないでござるよ……」

 

「ツクモさん……。その台詞、普通男が女に言うものじゃないんですか?」

 

 妖しい笑みを深くし、もはや妖艶といった雰囲気を放つツクモに、アルハレムは冷や汗を流しながらそう答えるのが精一杯であった。


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