魔物使いのハンドレッドクエスト   作:小狗丸

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第二十一話

「……ん?」

 

 魔物擬きとの戦いから五日ほど経ったある日。朝、アルハレムが目を覚まして最初に見たのは四つの丸だった。

 

「……丸?」

 

「おはようございます、アルハレム様♪」

 

「………♪」

 

 四つの丸の上から聞こえてくる声にアルハレムが視線を動かすと、そこには一糸纏わぬ姿のリリアとレイアが自分を見下ろしていて、最初に目に入った四つの丸が彼女達の胸にある豊かに実った乳房だと気づく。

 

「あ、ああ、おはよう」

 

 リリアとレイアに挨拶をしてアルハレムは昨日彼女達が見つけた洞窟に野宿して、その夜にいつものごとく肌を重ねた後で気絶するように眠ったのを思い出した。その証拠に今彼らがいるのは岩肌がむき出しになっている洞窟の中で、更にいえば一晩寝て休んだはずの魔物使いは目の下にクマができているのに対して、仲間のサキュバスとラミアは肌にハリがでていて活力に満ちていた。

 

「うう……。体が重い……」

 

「アルハレム様。朝起きるなり何言っているんですか? それよりも朝食にしましょう。レイア、手伝ってくれますか?」

 

「………」

 

 朝食の準備をしようとするリリアに呼ばれてレイアが頷く。最初こそは仲があまり良くなかった二人だったが、五日前の魔物擬きとの戦いでリリアがレイアの実力を認めたのをきっかけに、今ではそれなりに協力し合える関係になったようだ。

 

……まあ、協力し合うといってもどちらかといえば利用しあう感じで、しかも二日に一度は殺し合い寸前の喧嘩をしそうになって、その度にアルハレムが必死になって止めることになるのだが……。それはともかく。

 

(なんていうか……改めて考えると俺って恵まれているよな)

 

 相変わらずの体の秘所を隠す機能しかない衣装を着てから朝食の準備をするリリアとレイアの姿を眺めながらアルハレムはしみじみとそう思った。

 

(冒険者になって旅を始めてからまだ十日くらいしか経っていないのに、その間にサキュバスとラミアの仲間ができて、しかもその仲間が美人で強い上にとても優秀で……。今だってこうして野宿できる場所を見つけてくれて朝になれば朝食の準備をしてくれる。本当、他の人が見たら石を投げられそうなくらい羨ましい立場だよな、俺って)

 

「? アルハレム様、どうかしましたか?」

 

「………?」

 

 アルハレムが内心で感謝をしながらリリアとレイアを見ていると、自分達の主の視線に気づいたサキュバスとラミアが振り返った。

 

「いや、なんでもないよ。それよりよくこんないい洞窟を見つけてくれたよな。おかげで昨日はよく眠れたよ」

 

「はい♪ 昨日、オーク達が生意気にもここで快適に暮らしているのを見つけたので、オーク達を皆殺しにして奪ったんです♪」

 

「………」

 

 アルハレムに褒められたリリアは顔に喜色を浮かべて答え、その隣ではレイアが「私もオーク達を皆殺しにするのを手伝った」と言いたげに握り拳を作っていた。

 

「………………え?」

 

「朝食はその時殺したオークのお肉を使った焼肉です。十頭分くらいありますから、たくさん食べてくださいね♪」

 

「………♪」

 

 突然聞かされた血生臭い話に固まるアルハレム。そんな彼の様子に気づかずリリアは笑顔で言い、レイアは昨日殺したオークの生首を自慢するかのように見せる。ちなみにオークの生首は恐ろしい怪物を前にしたかのような恐怖に染まった表情をしていた。

 

(……やっぱり、羨ましくなんかないかも)

 

 野宿する場所を得るためにオークの皆殺しにして、更にその肉を朝食にする。そんな話を笑顔で話すリリアとレイアの姿は、外見が美しい分余計に恐ろしく感じられ、アルハレムは先程の自分の環境の評価を改めるのだった。

 

「ま、まあとにかく早く朝食の準備をしてくれ。俺も準備を手伝うから。朝食を食べたらすぐに出発するぞ」

 

「え? そんなに急いでどうするんですか? もう私達、ギルシュについているんですよね?」

 

「………?」

 

 リリアの言うとおり、アルハレム達はつい先日にエルージョとギルシュとの国境でもある山脈を越えて、アルハレムの故国であるギルシュに辿り着いていた。

 

「ああ、そうだ。でもこの近くには俺の友人が住んでいる街があってな。できるだけ早くそこに行きたいんだよ」

 

「アルハレム様のご友人……そうですか。それでは手早く作りましょうか。三人一緒で料理をするなんて何だか楽しみですね♪ まずはオークの解体からです♪」

 

「………♪」

 

「………………………………………解体?」

 

 笑顔で言うリリアの言葉にアルハレムは、ついさっき「自分も準備を手伝う」という発言をしたことを深く後悔するのだった。


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