石の門に生じた光の中に入ったアルハレム達の視界が真っ白に染まる。しかしそれもすぐに終わり、視界が戻ったアルハレム達が見たのは緑が生い茂る山の中ではなく一つの集落があった。
山の自然を損ねず生活をする場所を得るために必要最低限の草木だけを刈り取り、高低差のある山の地形に木で作られたシン国特有の家屋が何十軒と建てられた集落。此所こそが猫又の一族と霊亀の一族が共存して暮らす隠れ里だった。
「ここが猫又と霊亀の魔女が暮らす隠れ里? さっきまでアタシ達、何もない山の中にいたよね?」
一気に雰囲気が変わった周囲を見回してシレーナが呟き、それにウィンが続けて言う。
「ああ……。それにこんだけ家があったら流石にエターナル・ゴッデスでここに来たときに上から分かるはずだろ? さっきの光に入った時に空間転移でもしたのかい?」
「いえ、それはないと思います。もし空間転移をしたのだったら私が分からないはずがありません」
「その通りでござる」
ウィンの呟きに空間転移を得意とするレムが断言するとツクモがそれに頷いて種明かしをする。
「ここは先程からいた山の中。この隠れ里は猫又と霊亀の魔女、そしてその二種族が認めた者しか入れない結界と外部からはただの森にしか見えない幻術で守られているのでござるよ」
「その結界と幻術を作り出しているのが霊亀の魔女達なのか?」
話を聞いていたアルハレムが質問をするとツクモはそれに頷いてみせた。
「そうでござる。この霊亀の魔女の結界と幻術は未だ破られた事が無く、これのお陰でツクモさん達猫又の一族は自分達の拠点を確保できているのでござる」
「そしてその恩があるからこそ、我ら猫又の一族は霊亀の魔女に深い敬意を払い、百年前に拐われた霊亀の子供を無事に連れ帰ることを悲願としてきたのです」
「にゃっ!?」
ツクモが仲間達に隠れ里を守る結界について説明をしていると、そこに誰かの声が割り込んできた。声がした方を見るとそこには白い着物を身に纏った白髪の猫又がいつの間にかアルハレム達の側に立っていた。
「し、師匠……」
「ツクモさんの師匠? ……あっ、そう言えば昔、何回か会ったことがあるような。確か名前は……ニタラズさん、でしたっけ?」
「え? そうなの、お兄様?」
ツクモのかすれるような声を聞いてアルハレムは過去にこの白髪の猫又にあった記憶を朧げながら思い出すが、アリスンは全く記憶が無いようで首を傾げた。そんな魔物使いの青年とその妹に白髪の猫又は微笑みを向け、次にヒスイを見ると深々と頭を下げた。
「こうしてお会いするのは本当にお久しぶりです。アルハレム様。アリスン様。……そしてヒスイ様。百年ぶりの故郷へのご帰還、このニタラズ、猫又一族を代表して歓迎させていただきます」