魔物使いのハンドレッドクエスト   作:小狗丸

213 / 266
第二百十二話

 外輪大陸。

 

 中央大陸を海につながる大河を挟んで包囲しているその大陸は、住民のほとんどがヒューマン族である中央大陸とは対照的に、ヒューマン族の他にもエルフ族にドワーフ族、そしてマーメイド族にバンパイア族も生活をしている。

 

 これは今から二百年以上昔に中央大陸を支配していたとある大国が行った弾圧によるもので、弾圧を逃れるために中央大陸から外輪大陸に移住したヒューマン族以外の四種族は、最初から外輪大陸で暮らしていたヒューマン族と交流を重ね、その結果として今では地域によって異なる様々な文化を築くようになっていた。

 

「そんな訳で外輪大陸には下にある『シン国』のように中央大陸では見られない街並みが多いのでござるよ。前に立ち寄ったレンジ公国は中央大陸と位置的に近かいから、街並みも中央大陸に近かったのでござろうな」

 

 エターナル・ゴッデス号の甲板でツクモは、自分の主である魔物使いの青年とその妹、仲間である魔女達に外輪大陸の歴史を簡単に説明すると、飛行船の下に広がっている光景を見下ろした。

 

 アルハレム達がレンジ公国から旅立って数日後。今、魔物使いの青年達を乗せた飛行船は外輪大陸の南部にあるシン国の上空に来ていた。

 

 ツクモに続いてアルハレム達も飛行船からシン国の街並みを見下ろす。シン国の街並みは建物の全てが木造で、街の至るところに大きな木が植えられた緑との調和がとれたものであり、それを見た魔物使いの青年とその仲間達はそれぞれ思ったことを口にする。

 

「なるほど。確かに中央大陸では見られない街並みだな」

 

「本当ですね。建物が全部木造の街並みだなんて初めて見ました」

 

 最初に口を開いたのはこの場で唯一の男でここにいる魔女達の主である魔物使いのアルハレム。その言葉に彼の隣に立つ、肌の露出が激しいほとんど裸同然の格好をしたサキュバスの魔女のリリアが同意する。

 

「………」

 

「木の、街並み、なんだ、か、脆そ、う」

 

 下半身が蛇であるラミアの魔女のレイアは興味があるのかないのか分からない相変わらずの無表情で見下ろして、背中に大剣を背負って水着のような外見の甲冑を身につけたグールの魔女のルルが少しズレた感想を呟く。

 

「どうでもいいけどようやく着いたわね」

 

「ここがシン国……」

 

 アルハレムの妹であるアリスンが甲板の縁で頬杖をついて興味無さげに見下ろすして、その横では儚げな雰囲気を纏った霊亀の魔女のヒスイが感慨深い表情を浮かべて呟く。

 

「国によって戦い方や武器が異なりますけど、この国の人達はどんな武器を使うのでしょうか?」

 

「確かこの国は『カタナ』っていうサーベルと弓矢を使う戦いが得意なはずですよ。……そういえば昔、この国に来た時に『幽霊船が来た!』って騒がれて弓矢で嫌ってくらい当船を射たれたんですよね」

 

 普段はロッド(硬鞭)の姿で魔物使いの青年の腰に収まっているインテリジェンスウェポンの魔女のアルマが女性の姿になって首を傾げると、この飛行船エターナル・ゴッデス号を動かす核であるゴーレムの魔女のレムがその疑問に答えた後で嫌な過去の記憶を思い出して落ち込む。

 

「へぇ……。止まり心地の良さそうな立派な大樹が幾つもあって中々良さそうな国じゃない」

 

「でも欲の臭いはあまりしないね……。こりゃあ、この国ではお宝は期待できそうにないね」

 

 両腕が鳥の翼であるセイレーンの魔女のシレーナが緑が豊かなシン国を見て上機嫌に呟き、それとは対照的に両腕が蝙蝠に似たドラゴンの翼であるワイバーンのドラゴンメイドが残念そうに呟く。

 

「あの、ツクモさん? 本当にこの国なんですか?」

 

 飛行船からシン国を見下ろしていたヒスイが期待のこもった目をツクモに向けて訊ねる。それに猫又の魔女は笑顔を浮かべて頷く。

 

「そうでござるよ、ヒスイ殿。この国にツクモさん達の猫又一族の隠れ里があり、そこがヒスイ殿の生まれ故郷でござるよ」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。