ようやくルルの話が終わって解放されたアルハレムは、その後偶然出会ったツクモに誘われて船室の一つにやって来ていた。
「……と、まあそんな感じで夢に出てきそうな話を延々と聞かされたよ」
「にゃはは♪ それは災難でござったな」
「ルルってば、お兄様になんて縁起の悪い話を聞かせているのよ」
「でもその戦乙女や戦士の皆さんは可哀想ですね」
船室でアルハレムがついさっきルルに聞かされたこの飛行船で死んでしまった戦乙女や戦士の最期を話すと、ツクモと彼より先に船室に来ていたアリスンにヒスイがそれぞれ自分の思ったことを言う。
ツクモとアリスンにヒスイは、基本的に協調性が薄く自分達の主が関係しないことだったら単独行動をとるアルハレムの仲間達の中では最も仲がよく、今のように同じ部屋で行動を共にすることが多い。だがそれは彼女達の事情を見れば当然とも言えた。
アリスンはアルハレムの実の妹であり、ツクモは二人の兄妹の実家であるマスタノート家とある理由から百年以上昔より協力関係にある魔女の一族、猫又族の出身。そしてヒスイは今から百年以上昔にエルフ族によって拐われて、強制的にマスタノート家が治める領地にあるダンジョンの核にされていた魔女である。
アルハレムはダンジョンを攻略してヒスイを助け出す際に契約の儀式で彼女を自分の仲間とし、それによってエルフ族に拐われた霊亀の魔女を救うことを一族の悲願としていたツクモも魔物使いの青年の仲間になったのであった。
「それで今日は三人で集まって何をしていたんだ?」
「えっ!? ……わ、私はちょっとツクモに聞きたいことがあっただけで……」
「私はこれからの戦いでお役に立てるように戦い方をツクモさんに教えてもらおうと思ってきました。……あっ。ツクモさん、ありがとうございます。旦那様、これをどうぞ」
アルハレムが訊ねるとアリスンは何故か慌てた表情となって目を逸らしながら答え、ヒスイはツクモが淹れてくれた紅茶を魔物使いの青年に手渡しながら答えた。
「アリスンもヒスイ殿も丁度同時にツクモさんの部屋に来て、そしてそのすぐ後にアルハレム殿の姿が見られたので声をかけてみたのでござる。……それにしてもこの四人だけというのも珍しいでござるね? 折角だからここにいる四人で房中術の稽古でもしてみるでござるか?」
ツクモは言葉の途中で悪戯を思いついた顔をすると、自分の服の帯を取ってみせた。すると猫又の魔女の服が床に落ち、その下にあった白い肌と形のよい豊かな乳房が露になった。
「ぶっ!?」
「ちょっとツクモ!? あんた何やっているのよ!?」
突然のツクモの行動にアルハレムは飲んでいた紅茶を吹き出しそうになり、アリスンが顔を真っ赤にして怒鳴る。
「にゃはは♪ 軽い冗談でござるよ♪ それよりもヒスイ殿? ヒスイ殿に今必要なのは戦う技術よりもアルハレム殿と協力して自分の特性を使いこなすことだと思うでござるよ」
「そうなのですか」
「うむ。そうでござるよ」
ツクモの助言にヒスイが首を傾げて訊ね、それに猫又の魔女は自信ありげに頷いた。アルハレムもそれには同感だと思った。
ヒスイが使う霊亀の種族特性は非常に強力で、生半可に武術を習うよりも種族特性を使いこなすように訓練した方が、戦闘で味方の被害を少なくすることができるだろう。
「アルハレム殿。申し訳ないでござるが、隣の部屋でヒスイ殿とちょっと戦闘になった時にお互いがどうするか話し合ってもらってもよいでござるか? ツクモさんはアリスンと話すことがあるでござるから」
「ああ、別に構わないよ。それじゃあヒスイ、隣の部屋に行こうか?」
「はい。旦那様」
アルハレムとヒスイはそう言うと部屋を出て隣の部屋へと行き、部屋にいるのツクモとアリスンの二人だけとなった。
「……ツクモ、相変わらず貴女って人をからかうのが好きね」
「にゃはは♪ まあ、こればかりはツクモさんの性格だから仕方ないでござるよ」
アリスンがジト目で言うとヒスイはそれに対して愉快そうに笑って乳房を揺らし、戦乙女の少女は「いい加減服を着なさいよ」と言う。
「だけどこうしてアリスンがツクモさんに相談に来るのも久しぶりでござるね」
「……それは、そうかもね」
半裸の猫又の魔女の言葉にアリスンは短く言って答えると昔の事を思い出した。