「………」
「………」
レイアの部屋を後にしたアルハレムは無言で飛行船エターナル・ゴッデス号の船内を歩いていた。彼の腰に差してあるインテリジェンスウェポンのロッド、アルマも主と同じく無言であった。
「………」
「………」
「……………」
「……………」
「…………………アルマ。何か言いたいことがあるんだったら言ったらどうだ?」
しばらくの間、無言で船内を歩いていたアルハレムであったが、やがて沈黙に耐えられなくなって自分の腰に差してあるロッドに話しかけた。
「……別に言いたいことなんてありませんよ。別に『マスターがついに飲んだくれのラミアにガツンと言ってくれるのかなと期待していたら結局は色香で誤魔化されてガッカリです』とか、『胸の谷間にお酒を注いでみせただけであそこまで驚かなくてもいいだろう』とか、『結局は飲むのかよ。それも嬉しそうに』とか思っていませんから」
「思っているじゃないか! そして言っているじゃないか!」
「……? 我が夫、と、アルマ、ケンカ?」
アルマの言葉にアルハレムが声を荒らげると、丁度通路の曲がり角から姿を現したルルがそれを聞いて首を傾げた。
「ルルか? いや、別にケンカじゃないよ。……その武器は何だ?」
アルハレムはルルの言葉を否定した後、グールの魔女が剣や槍等の複数の武器を抱えるように持っていることに気づく。そしてそれと同時に、彼女の水着のような甲冑に包まれた形のよい巨乳が卑猥に形を歪めているのが見えたのだが、魔物使いの青年はそれには気づかないフリをした。
「こ、れ? 新しい、技の、習得に、使えない、か、試して、た」
「新しい技の習得? ……ああ、そういうことか」
ルルの言葉を聞いたアルハレムは一旦遅れてその言葉の意味を理解する。彼女の種族グールは「知識の遺産」という物に宿る記憶を読み取る種族特性を持ち、優秀な戦乙女や戦士が愛用していた武器の記憶を読み取ることで、彼らが使用していた技を習得することができるのだ。
ルルはアルハレムが三番目に仲間にした魔女で、仲間にする時に契約の儀式で一対一の決闘を行い、その際にグールの種族特性で習得した技に苦しめられたのを魔物使いの青年は思い出す。
「それでその武器は一体どこから手に入れたんだ?」
「これ、この船に、あった、もの。レム、から、貰った」
「なるほどね」
ルルが持っている武器はどれも長年使い込まれた良質なものばかりで、アルハレムがどこで見つけたか聞くとグールの魔女はこの飛行船を操るゴーレムの魔女から与えられたものだと答える。この飛行船エターナル・ゴッデス号は元々ダンジョンであり、彼女の持つ武器は過去にここを挑戦した攻略者達が遺したものなのだろう。
「それで? 何か新しい技は習得できそうか?」
「うう、ん。……でも、この武器、どれも、興味深い、記憶、沢山、あった」
武器からは新しい技は習得できなかったが、代わりに武器の持ち主達の興味深い記憶を知ることができたとルルが答えて、それを聞いたアルハレムが興味を覚える。
「そうなんだ? 一体どんな記憶だったんだ?」
「うん。例え、ば、この、レイピア」
ルルは抱えるように持っていた複数の武器の中から一本のレイピアを選んで右手に取るとそれをアルハレムに見せる。
「この、レイピアの、持ち主、優秀な、戦乙女、で、ここに、挑戦しに、来た、攻略者、の、集団の、リーダー、だった。……でも、最期、は、仲間達、見捨て、られた」
「……………え?」
ルルが語るレイピアの持ち主の記憶を聞いて思わず絶句するアルハレム。しかしグールの魔女はそんな自分の主に構わずに相変わらずの独特な口調で話を続ける。
「レイピアの、持ち主、仲間達を、信頼、してた。大切、な、友人、だと、思ってた。でも、この、船で、魔物、に、囲まれ、ると、仲間達に、囮に、されて、一人、取り残され、た。それで、最期は、仲間達を、恨み、ながら、魔物に、殺され、た」
「…………………………」
危険に満ちたダンジョンを探索する以上あり得なくはないが、それでも悲惨すぎるレイピアの持ち主であった戦乙女の最期に、アルハレムが何を言えばいいのか分からずにいるとルルは別の武器を手に取ってみせる。
「それ、で、この、槍の、持ち主は……」
「いや、あの……ルルさん?」
その後アルハレムは、ルルが武器から読み取った記憶、優秀な戦乙女や戦士がこの飛行船で非業の死を迎えた話を長時間、延々と聞かされることになるのであった。