魔物使いのハンドレッドクエスト   作:小狗丸

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第二百四話

「はぁ……、ようやく解放された……」

 

 つい先程までリリアに捕まって二時間にもわたる話を聞かされたアルハレムは、飛行船エターナル・ゴッデス号の船内を疲れた顔で歩きながら呟く。

 

「まさかリリアがあそこまでムキになるなんてな」

 

「いえ、あれはマスターが悪いと思います」

 

 アルハレムの呟きに彼の腰に差してあるインテリジェンスウェポンのロッド、アルマが答える。

 

「女性というのは服装やお洒落にとても気を使う生き物なのです。それなのにリリアが考えた新しい衣装を前と変わらないと言ってはムキになるのは当然です。マスターは女性の心をもっと知るべきです」

 

「女性の心、ね……」

 

「そうです。女性の心をこのままでいると仲間の魔女達の力と肉体だけが目当ての、俗に言うヒモ野郎の中でも最底辺の寄生虫になりますよ、マスター?」

 

「……なあ、アルマ? なんか最近、俺に対して言い方がキツくなっていないか?」

 

「気のせいでしょう?」

 

 アルハレムはジト目になって自分の腰に差してあるインテリジェンスウェポンを見るが、アルマはそ知らぬ顔(ロッドの姿なので顔をないのだが)で答える。

 

「いや、気のせいなんかじゃ……うわっ!?」

 

 アルマと話ながら通路を歩くアルハレムだったが、突然片方の足が動かなくなって転んでしまい、顔を床にぶつけてしまう。

 

「いたた……。一体何が……?」

 

 痛む顔を手で押さえながらアルハレムが動かなくなった足を見ると、足首には長くて太いものが巻き付いていた。

 

「え? これって、もしかし……てぇえええ!?」

 

 自分の足首に巻き付いているものに心当たりがあったアルハレムが何かを言うより前に、長くて太いものは魔物使いの青年を何処かへと引きずっていく。

 

「あたた……。こ、こんなことをするのは……お前か、レイア」

 

 引きずられたことで体の前身が痛むのをこらえながらアルハレムが立ち上がると、そこはエターナル・ゴッデス号に無数にある船室の一つで、船室にはラミアの魔女のレイアがいた。どうやら魔物使いの青年の足首を捕まえて引きずったのは彼女の尻尾らしい。

 

「それで? 一体どうしてこんなことをしたんだ?」

 

「………」

 

 アルハレムが質問をするとレイアは左手に持った杯を見せて右手で自分の主である魔物使いの青年を手招きした。

 

「……どうやら一緒にお酒を飲もうとマスターを誘っているみたいですね。そのわりにはすでに一人で大量に飲んでいたみたいですけど……」

 

 アルマの言う通りレイアの周囲には中身が空の瓶や樽がいくつも転がっていて、その全ての瓶と樽から酒の匂いが漂ってきていた。

 

「まあ、レイアは……というか、ラミアは大の酒好きの種族だからな」

 

 アルハレムは初めてレイアと出会った時のことを思い出しながらアルマの呟きに答える。

 

 レイアはアルハレムが二番目に仲間にした魔女である。

 

 エルージョとギルシュの国境にある山を越える途中でアルハレム達が野宿をしていた時、夕食のために用意した酒の匂いに釣られて現れた魔女がレイアで、その後このラミアの魔女は「仲間になれば酒を飲ませてやる」と約束するとあっさり魔物使いの青年の仲間になったのだ。

 

 そんな過去があるため、レイアが昼から大量の酒を浴びるように飲んでいても、主であるアルハレムを強引に飲み相手に誘っても、全く不思議ではなかった。

 

「……それにしてもここにある酒って、前に寄った街で買った高い酒ばかりじゃないか。もう全部飲んだのか……」

 

 アルハレムは床に転がっている空の酒瓶と酒樽の銘柄を見て頭痛がするとばかりに額に手を当てた。レイアが飲み干した酒は買った街で一番良いものばかりで、その購入金額は金貨数枚にわたる。

 

 レイアは街につくと必ず酒場に行き、そこにある酒を大量に買う(正確にはアルハレムにおねだりする)のだ。このラミアの魔女の酒代は旅の出費の七割から八割に及び、魔物使いの青年の頭痛の種となっている。

 

「ええっとな……レイア? 確かに俺はお前を仲間にする時に酒を飲ませてやるって言ったよ? それで実際に飲むのも別に構わない。……でも、それでも少し飲む量を減らしてくれないだろうか?」

 

「………! ………」

 

 流石に注意すべきだと思ったアルハレムが出来るだけ優しい口調で言うと、レイアは体を一瞬強張らせるとすぐに自分の主に詰め寄って「そんな冷たいことをいわないで。ほら、このお酒、美味しいよ?」と言いたげな顔で酒の入った杯を寄越そうとしてきた。その際にラミアの魔女の体と密着して柔らかい感触を感じたのだが、魔物使いの青年は理性を総動員してそれを表情に出さないようにした。

 

「う……! さ、酒はいいって。だからレイア…………えっ!?」

 

「………♪」

 

 レイアの酒を断ってアルハレムが更に言おうとした時、ラミアの魔女は自分の胸の豊かな乳房を寄せて谷間を作り、そこに杯の酒を注いでみせる。

 

「な、何のつもりだ……?」

 

「………♪」

 

 レイアは自分の谷間に注いだ酒をアルハレムに進め、「ほら、美味しいよ。飲んでみて?」と言ってそうな媚びた表情を見せた。


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