魔物使いのハンドレッドクエスト   作:小狗丸

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第十九話

「あ~、体が重い……。太陽が黄色い……」

 

 ラミアのレイアを仲間にした次の日。アルハレムは仲間の魔女二人を連れて故国であるギルシュに続く山道を歩いていたのだが、その足取りは非常に重かった。

 

「もう! アルハレム様ったら、もっとしっかり歩いてくださいよ。そんなにゆっくり歩いていたら日が暮れてしまいますよ?」

 

「………誰のせいでこうなったと思っているんだよ? ステータス」

 

 血色のよい顔で言うリリアに、アルハレムは怨みがこもった視線を向けると自分のステータスを呼び出した。

 

 

【名前】 アルハレム・マスタノート

【種族】 ヒューマン

【性別】 男

【才能】 3/20

【生命】 30/1230

【輝力】 0/0

【筋力】 26

【耐久】 25

【敏捷】 30

【器用】 30

【精神】 27

【特性】 冒険者の資質、超人的体力

【技能】 ★中級剣術、★中級弓術、★中級馬術、★初級泳術、★契約の儀式、★初級鞭術

【称号】 家族に愛された貴族、冒険者(魔物使い)、サキュバスの主、ラミアの主

 

 

「見ろよコレ? 昨日お前とレイアが何回も搾り取ったせいだぞ……」

 

「そ、そうでしたっけ?」

 

 今にも倒れそうな顔で睨むアルハレムに、レイアは額に一筋の冷や汗を流して視線をそらした。

 

 そう、アルハレムがここまで消耗しているのは昨夜、リリアとレイアの魔女二人と肌を重ねたことで生命力を限界まで吸い取られたせいだった。いくら生命力を強化する特性、超人的体力を持つアルハレムでも魔女二人の相手をするのは荷が重かったようだ。

 

「あとコイツ、いつまでこの状態なんだ? 正直歩き辛いんだけど?」

 

 アルハレムが指差したのは自分の背中……そこにしがみつくレイアだった。ラミアの僕は無表情だが頬を赤く染めていて、主である魔物使いの背中に頬を擦り付けながら後についてきていた。

 

「それは仕方がないですよ。昨夜のアルハレム様は本当に逞しかったのですから♪ 本当だったら私だってアルハレム様の腕にしがみつきたいくらいです♪」

 

「……頼むから止めてくれ。ただでキツイんだからお前にまでしがみつかれたら歩けないって。こんな調子でクエストなんてできるのか、俺?」

 

 アルハレムはクエストブックを取り出すと、今日の朝に新しく記されたクエストの文章を見た。

 

【クエストそのご。

 おともだちのまものさんたちといっしょに、さんにんいじょうのてきさんとたたかって、かってください。

 まものつかいなら、おともだちのまものさんたちときょうりょくしてたたかってみましょう。

 それじゃー、あとあとにじゅうにちのあいだにガンバってください♪】

 

「三体以上の敵と戦う、ですか……。クエストも少しずつ難しくなっていきますね。……というか昨日は聞く機会がなかったんですけど、レイアって一体何ができるのですか?」

 

「………♪」

 

 アルハレムの横でクエストブックを読んだリリアが聞くが、レイアはリリアの声が聞こえていなかったようでアルハレムの背中に頬を擦り付けていた。

 

「……あの? レイア?」

 

「………♪」

 

「ねぇ、レイア?」

 

「………♪」

 

「ちょっとレイア? 聞こえてますか?」

 

「………チッ」

 

「舌打ち!? 今舌打ちしましたよね? 今まで聞こえていて無視していたんですよね!?」

 

「………♪」

 

 舌打ちするレイアにリリアは声を荒らげるが、ラミアの僕はまた聞こえないふりをしてアルハレムに背中に頬擦りを再開する。

 

「えっと……レイア? できたらレイアのステータスを見せてくれないか?」

 

「………!」

 

 アルハレムが頼むとレイアは頬擦りするのを止めて即座に自分のステータスを呼び出した。

 

 

【名前】 レイア

【種族】 ラミア

【性別】 女

【才能】 0/44

【生命】 280/280

【輝力】 240/240

【筋力】 29

【耐久】 27

【敏捷】 27

【器用】 27

【精神】 31

【特性】 魔女の血統、人と化す蛇、魔眼貸与

【技能】 ☆身体能力強化、☆爪操作、☆尻尾操作、☆魔眼(眠り)、☆魔眼(麻痺)、☆魔眼(幻覚)

【称号】 酒を愛するラミア、アルハレムの従魔

 

 

「……レイアの態度には色々思うところがありますけど、中々優秀なステータスですね。特にコレはアルハレム様のお力になりそうですね」

 

 半眼となったリリアは、レイアのステータスを確認した後、彼女のステータスの一点を指差して告げる。

 

「コレ? 何のことだ?」

 

「はい。この特性の……」

 

「………ペッ」

 

 ビチャ☆

 

 首をかしげるアルハレムにリリアが顔を近づけて説明しようとした時、彼女の頬に水が飛んできて付着した。それはレイアの吐いた唾だった。

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

 一瞬の静寂。やがてリリアの頬からレイアの唾が流れ落ちると、怒りに燃えるサキュバスはゆっくりとした動きで、自分を睨み付けるラミアに視線を向ける。

 

「……上等だ。ちょっとそこまでツラかせや、コラ」

 

「………」

 

「ま、待て!? リリア! レイア! 頼むから落ち着いてくれ!!」

 

 全身から闘気を放ちながら睨み合うリリアとレイア。このままでは間違いなく潰しあいになると感じたアルハレムは二人を止めようと説得する。

 

 ……そしてアルハレムの一時間にもおよぶ必死の説得により、サキュバスとラミアの潰しあいはなんとか回避されたのだった。


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