魔物使いのハンドレッドクエスト   作:小狗丸

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第百九十八話

「……フン! 何を怯えているのよ? 魔女が戦乙女と同じくらい強いって言う噂話はよく聞くけど、こんな男の下についてヘラヘラしている奴等が強いはずがないじゃない?」

 

 戦いを止めようとするバドラックとマルコにアニーは見下した視線を向けて傲然と言い放ち、それを聞いてアルハレムは彼女が最初に会った時から男を下に見ていたのを思い出した。

 

(つまりアニーは男の俺に従っているという理由だけでリリア達を弱いと思っているのか? 確かに戦乙女には輝力を使えない男を馬鹿にするのが多いが……)

 

「大体このアルハレムはねぇ、輝力が使えない男な上に、一人じゃ何もできなくて私にあっさり負けた奴なのよ? そんな……」

 

「黙りなさい」

 

 アルハレムが心の中で呟いている間にも、魔物使いの青年を悪く言おうとしていたアニーであったが、彼女の言葉は意外な人物の言葉で遮られた。

 

「………え?」

 

「黙りなさい、と言ったのです」

 

 アニーの言葉を遮った声の主はヒスイだった。

 

 アルハレムの仲間の中で一番大人しい性格で常に穏やかな表情を絶やさなかったはずのヒスイが、今この場では能面みたいな無表情で瞳に強烈な敵意の光を宿しており、それは普段の彼女を知る者達には到底想像できない姿であった。

 

「(あ、アルハレム様。ひ、ヒスイさんが今まで見たことがないくらい物凄く怒ってますよ……!)」

 

「(そ、そうだな……。流石のヒスイもアニーのキャラには我慢できなかったか)」

 

 恐らく初めて本気で怒ったのであろう霊亀の魔女の姿に、サキュバスの魔女と魔物使いの青年は思わず小声になって話す。

 

「旦那様と皆さんに対する暴言、とても許せるものではありません。アニーさん、今の暴言を撤回して旦那様と皆さんに謝罪してください」

 

「な……? い、嫌よ。私は本当のことを言っただけなのに何で謝らないと……」

 

「そうですか」

 

 全身から怒気を放つヒスイにアニーが気圧されながら答えると、霊亀の魔女は体を青白く輝かせて輝力を使い出した。

 

「では仕方がありませんね。では旦那様の『力』である私達が貴女達を倒すことで力ずくで先程の暴言を撤回させます」

 

「ち、力ずくって……? というより輝力? 一体何をする気……え?」

 

 輝力を使い出すヒスイを見てアニーは慌てて腰に差してある剣を抜こうとしたのだが、その途中で腕が見えない壁にぶつかって止まってしまう。

 

「な、何だこりゃあ?」

 

「見えない壁に取り囲まれている?」

 

 アニーに続いてバドラックとマルコも今自分達が目に見えない壁に囲まれて身動きが取れないことに気づくがすでに遅かった。

 

「無駄ですよ。貴女達は完全に私の特性で作った結界に閉じ込められています。貴女達はもう逃げることも、私達に攻撃することもできません。その上、この結界は私達からの攻撃は通します。ここまで言えば……分かりますね?」

 

『……………』

 

 ヒスイが無表情のままアニー達に説明をすると、身動きが取れないエルージョの勇者達をリリアを初めとするアルハレムの仲間達が邪悪な顔で取り囲み、それを見てバドラックが盛大に顔を引きつらせる。

 

「お、おい……。どっかのワガママ娘がいらん挑発をしてくれたお陰で大ピンチじゃないか? 俺達?」

 

「何よ! 私のせいだって言うつもり!」

 

「どう考えてもお前のせいだろうが!」

 

「ちょっと! アニーさんもバドラックさんもこんな時に喧嘩しないでください! それよりもこれは本当にヤバイですよ? 身動きが全く取れない状況で敵意に満ちた目をしている戦乙女と魔女達に囲まれているだなんて、こんなの……こんなの……」

 

 口論になりかけたアニーとバドラックを止めたマルコは、リリア達を険しい顔で見て言い放つ。

 

「こんなの! 興奮するじゃないですか!」


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