魔物使いのハンドレッドクエスト   作:小狗丸

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第百八十八話

「つまり私は実力だけでなく幸運にも恵まれた勇者。言わば神に愛された存在とも言えるのよ」

 

(神に愛された、ねぇ……)

 

 聞いている方が恥ずかしくなる台詞を一切の照れも見せずに言って話を締めくくったアニーを見て、アルハレムは幼女の姿をしているこの世界を創造した女神イアスの顔を思い出す。

 

(確かにあの女神イアスだったらどんな人間だって、それこそここにいるワガママで暴力的で人の話を聞かなくて自分が一番正しいと思っている犯罪者の一歩手前の戦乙女であっても愛するだろうな)

 

 心の中でアニーに対する暴言を並べて納得をするアルハレム。暴言を並べるあたり、彼もやっぱり目の前にいる戦乙女の勇者に腹を立てているのだった。

 

「前は卑怯な手で負けてしまったけど、今回は私がこのダンジョンを先に攻略して勝たせてもらうわ。覚悟しておくことね」

 

 言いたいことを全て言ったせいかスッキリとした表情となったアニーはそのままダンジョンへと歩いていく。そしてその後をダンジョンの入場料を支払ったバドラックとマルコが「すまなかったな」、「本当にごめんなさい」とアルハレム達に謝罪してからついていった。

 

「……やれやれ。やっと行ったか」

 

「相変わらずあの女と話すと疲れますね。……というより勇者になったせいでよりバカさ加減が上がっていません?」

 

 アニーがいなくなったところでアルハレムが疲れた顔で言い、リリアもまた疲れた顔で答える。そして疲れた顔をしていたのは他の仲間達全員も同じであった。

 

「………」

 

「何な、の、あの、女? 言いたい、ことを、言うだけ、言って、勝手、に、行った」

 

「にゃー……。以前戦ったアンジェラ並みに強烈な娘でござったな」

 

「貴女達、同じ戦乙女だからってあんなのと私を一緒にするんじゃないわよ?」

 

「人間の方にも色々な方がいるんですね……」

 

「あのアニーという女は勇者の特権にばかり目がいっていて、勇者としての果たすべき義務には気づいていないようですね」

 

「要するに馬鹿ってことか……」

 

「まあ、力を持った人間ってのは傲慢なのが多いけど、アレはその中でもちょっと酷い方だね」

 

 レイア、ルル、ツクモ、アリスン、ヒスイ、アルマ、シレーナ、ウィンの順にアニー対する感想を漏らす。やはり当然のことながら彼女達の戦乙女の勇者の印象は最悪であった。

 

「……とにかく、アニーのことは一旦忘れて俺達もダンジョンに入ろう」

 

「しかしアルハレム様? ダンジョンに挑戦するのは私も賛成なのですが、もし私達が先にダンジョンを攻略してエリクサーを手にいれてもあの女のことですから『貴方達、またズルをしたんでしょ!? 私のエリクサーを返しなさいよ!』と言って襲い掛かってくるのではないですか?」

 

「……あり得るな」

 

 ダンジョンに入ろうとするアルハレムにリリアが言うと、魔物使いの青年とその仲間達は渋い顔をして頷いた。あの戦乙女の勇者ならばその様な台詞くらい平気で言うだろう。

 

「確かにあのアニーだったらやるだろうな……。どうしよう? このダンジョンの攻略は諦めたくないし、かといってこれ以上アニーには関わりたくないし、何か言い方法はないかな……」

 

「んー……。要するにあの戦乙女がダンジョンを攻略する前にアタシ達がダンジョンを攻略して、その後は顔を合わせずに別の場所に行ければいいんだよね?」

 

 何とかしてこれ以上アニー達と関わらずにダンジョンを攻略する方法を考えるアルハレムに、何かの考えがあるのかシレーナが話しかけた。


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