アルハレム達が声がしてきた方を見るとそこには案の定、昨日再会したエルージョの勇者アニーがダンジョンの前で、挑戦者や観光客から入場料を回収しているレンジ公国の衛兵に食って掛かっていた。
「私は! エルージョの勇者アニーなのよ!? その私から入場料を取るなんてどういうつもりよ!」
「アニーさん、落ち着いてください。そういう決まりなんだから仕方がないじゃないですか」
「マルコの言う通りだ。いい加減にしろ」
「貴方達は黙っていなさい!」
護衛役であるマルコとバドラックも止めようとしているがそれで止まるアニーでもなく苛立った叫び声を上げる。それを見て魔物使いと戦乙女に魔女達の一行は全員が心底嫌そうな、あるいはうんざりとした表情を浮かべる。
「アイツはここでもあんな事をしているのか」
「……本当に相変わらずどこまでも自己中心的な女ですね。アルハレム様、どうしますか?」
リリアが皆を代表して額を手で押さえながら呆れているアルハレムに聞くと、残りの魔女達も魔物使いの青年を見つめる。
「バドラックさんには悪いとは思うけど、あの恥ずかしい集団の仲間とは思われたくないからな。このまま、素知らぬ顔をして行こうと思う」
リリアの質問にアルハレムが即答すると、彼の仲間達は全員異論がなく頷いてみせた。昨日バドラックと会話をした数名は若干申し訳なさそうな表情をしたが、それでもやはり今もここまで聞こえてくる怒声を上げるあのはた迷惑な勇者と関わりたくないらしい。
その後アルハレム達はいまだに騒いでいるアニー達からできるだけ距離をとってダンジョンに向かった。
アルハレムを初めとする仲間達全員が、耳に飛び込んでくる戦乙女の勇者の怒鳴り声に聞こえないフリをして、急がず慌てずに歩を進めていく。下手に急ごうとすると相手に気づかれる危険があるからだ。
アニーとは関わり合いになりたくない。
アルハレム達の心は今一つであり、その甲斐があって騒いでるアニー達の横を通っても彼女に気づかれることがなく進むことができた。……しかし。
「あっ!? アルハレムさん! こんな所で会うなんて奇遇ですね!」
『…………………………っ!?』
アニーの声を背後にしたアルハレム達が安堵してほんの僅かに気を緩めた次の瞬間、偶然先を行こうとするアルハレム達の姿を見つけたマルコが不自然なまでに大きな声を出して呼び掛ける。
それにより魔物使いの青年とその仲間達の今までの努力は無にと化したのだった。