魔物使いのハンドレッドクエスト   作:小狗丸

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第百八十二話

「……え? ダンジョンを攻略した?」

 

「………」

 

「それって、一人、で?」

 

「人間がダンジョンを攻略するなんて凄いじゃない」

 

 ダンジョンを一人で攻略したという話に絶句した後にアルハレム、レイア、ルル、シレーナが口々に言うと、バドラックは若干照れくさそうに頭をかいた。

 

「それほど大したことじゃねぇよ。攻略したダンジョンってのはトラップばかりで敵が全くいなくてな、俺は運良くトラップを潜り抜けることができただけだ」

 

「いやいや……充分大したことだって」

 

 酒を飲みながら謙遜をするバドラックの言葉をアルハレムが否定をする。

 

 ダンジョンは女神イアスが人間に試練を与えるために創造した建造物である。その為、ダンジョンにある番人代わりの魔物やトラップには人間の想像を遥かに越えるものがあることを以前ダンジョンに挑戦したアルハレムは知っており、それを一人で突破したバドラックがかなりの実力者であることが分かった。

 

「なるほ、ど。一人、で、ダンジョンを、攻略、できる、なら、王族や、貴族に、スカウト、される、のも、納得」

 

「………」

 

「ああ……。ありがとよ……」

 

 ルルが納得した口調で言い、レイアが無表情だが感心した目でバドラックを見ながら頷く。しかし魔女とはいえ二人の美女に尊敬の眼差しを向けられているエルージョの騎士の表情は冴えなかった。

 

「バドラックさん? エルージョの騎士になったことに何か不満でも」

 

「うん? あー、そうだな……。実は俺さ、王族にスカウトされてエルージョの騎士になった時は柄にもなく嬉しかったんだよ。エルージョの片田舎出身の盗掘屋が下っぱとはいえ真っ当な騎士になれたと思ったら胸が一杯になったな。……でもなぁ、騎士になれて嬉しかったのは最初だけで、なってみると色々と窮屈な思いをするようになってな」

 

 酒によって口が滑らかになったせいか、今日会ったばかりのアルハレム達に内心に溜め込んでいた不満を口にするバドラック。

 

「その上、今ではあんなワガママ娘を勇者とよんでお守りをする毎日でな……。正直、こんなことなら盗掘屋のままの方が良かった、と思うことが多いんだよ」

 

「うっ、それは……」

 

「………」

 

「確か、に、嫌か、も」

 

「随分と面倒臭そうな性格してそうだもんね、あのアニーって奴」

 

 バドラックの口から出た愚痴にアルハレム、レイア、ルル、シレーナが微妙な表情となる。

 

「……あっ。でもバドラックさんがここにいるってことは、今アニーの側にいるのはあのマルコさんって人だけなんですよね? 大丈夫なんです……」

 

「大丈夫だ」

 

 場が暗くなりかけたのを察して話題を変えようとしたアルハレムの言葉をバドラックが即答する。

 

「え?」

 

「マルコの奴なら大丈夫だ。アイツだったらあのワガママ娘のワガママにも耐えられる。……理由は聞くな。聞かない方がいい」

 

 疑問符を上げるアルハレムに顔から一切の表情が抜け落ちたバドラックが言い、そんなエルージョの騎士からは異様な迫力が感じられてそれ以上質問をすることができなかった。


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