「あ、貴方がギルシュの勇者? 一体どういうことよ?」
「どうもこうもないですよ♪ アルハレム様はギルシュの由緒ある貴族、マスタノート家の血を引くお方ですから冒険者に選ばれれば、ギルシュの勇者に選ばれてもおかしくありませんよ」
驚きアルハレムを指差して言うアニーに、魔物使いの青年に従うサキュバスの魔女が我が事のように胸を張って答える。
「ギルシュの貴族……?」
「アニーさん、気づいていなかったのですか?」
「俺達はすぐに気づいたぜ? マスタノート家と言ったらエルージョでも有名だからな『ギルシュの傭兵貴族』ってな」
(エルージョではそういう風に呼ばれているんだ)
全く初耳といったアニーにマルコとバドラックが言い、それを聞いたアルハレムが内心で呟いた。
「………」
「我が夫、が、勇者に、選ばれ、る、当然。分から、ない、の、そっち。どうし、て、貴女、みたいな、人が、勇者に、選ばれ、る?」
「何ですってぇ!? どういう意味よ!?」
「はは……」
「あー……」
レイアがアニーを指差してルルがアルハレム達が考えていることを言うと、戦乙女の女性は火を吹かんばかりに怒り、その後ろにいるマルコが苦笑いを浮かべてバドラックが気まずげに視線をそらした。
「どういう意味もそのままの意味でござるよ。勇者というのは他国に自国を宣伝する顔役の仕事もあるでござる。アルハレム殿とリリアの話を聞いた限り、お主を顔役にしても宣伝どころか自国に泥を塗る結果にしかならんのではござらんか?」
「そうね。私も同感だわ。一体どうしてただクエストブックに選ばれただけの貴女が勇者になれたの? エルージョって、もしかして人材不足なの?」
「「……」」
ツクモとアリスンの言葉に痛いところを突かれたというかのように顔をそらす。
アルハレムが襲われたという話を聞いたせいかリリア達の言葉には容赦がなく、散々に言われたアニーはいい加減に我慢の限界にきて自然に右手が腰の剣にのびる。
「貴女達……黙っていれば言いたい放題……」
「あ、あの! 皆もそれぐらいにしましょうよ」
「ヒスイの言う通りだって。こんな大通りで喧嘩してどうするの?」
今にも腰の剣を抜こうとしているアニーの言葉の途中でヒスイが声を上げ、シレーナもそれに同意する。
「それで? そのエルージョの勇者様は一体どうしてここに来ているんだい?」
「……ふん! そんなの決まっているじゃない」
ウィンの言葉にアニーはこの王都にそびえ立つ塔、ダンジョンを指差した。
「私達はこの国のダンジョンを攻略するためにここにやって来たのよ」
(やっぱりか……。またコイツと関わることになるのか……)
予想していた通りのアニーの返答に、アルハレムは心の中でこっそりとため息をついた。