「……貴女がエルージョの、勇者? それは一体何の冗談ですか?」
アニーの話を聞いてリリアがとても信じられないといった顔をする。そしてサキュバスの魔女の言葉はここにいる全員が思っていることであった。
「冗談なんて言ってないわよ。私は本当にエルージョの勇者に選ばれたのよ。ほら」
そう言うとアニーは腰の後ろに差してあった短剣をアルハレム達に見せる。短剣の柄尻には紋章が刻まれた小さな円盤が取り付けられていて、短剣の東信の腹には戦乙女の女性の名前が刻まれていた。
「その紋章はエルージョの王家の紋章……。王家の紋章と所有者の刻まれている短剣、確かにエルージョの勇者の証だ」
短剣の柄尻にある紋章を見てアルハレムはリリアと同じく信じられないといった顔で呟き、それを聞いたアニーが自慢気に胸を張った。
「ふふん♪ 分かったみたいね。私はエルージョの勇者だってことを」
「何を自慢気に言っているのですか? 貴女がエルージョの勇者であるのなら、アルハレム様は……」
「ああ、いたいた。こんな所にいた」
胸を張って自慢をするアニーにリリアが言い返そうとしたその時、二人の男が戦乙女に声をかけてきた。
二人の男のうち一人はアルハレムやアニーと同年代くらいの茶髪の男で、もう一人は三十代くらいの黒髪の男だった。二人は旅慣れた格好をしており、腰には使い込まれた長剣を差していた。
「アニーさん。急にいなくならないでくださいよ」
「うるさいわね。私がどこに行くのも私の勝手でしょ」
茶髪の男の言葉にアニーはうるさそうに答えると二人の男を指差してアルハレム達を見る。
「せっかくだから紹介するわ。この二人はエルージョの勇者である私に従う、私の僕達よ」
「誰がお前の僕だ。誰が」
アニーの言葉に黒髪の男が心底嫌そうな渋い顔をして言う。
「俺達は国王陛下からお前の勇者としての旅を手伝うように命令されただけで、お前の僕になった訳じゃねぇよ」
「何よ。それだったら私の僕も同然じゃない」
「全然ちげぇよ。……それで? そこにいる美人さん達とそれを侍らせている羨ましい色男は一体誰だ?」
黒髪の男はアニーの言葉にぶっきらぼうに答えるとアルハレム達を見る。
「前にも言ったでしょ? 私を卑怯な手段で倒した卑怯者の冒険者と生意気なサキュバスの魔女よ」
「ああ……」
「へぇ……」
アニーの言葉を聞いて茶髪の男と黒髪の男は興味深そうにアルハレム達を見る。
「そうか、お前達があの冒険者か……。アニーはお前達の事を散々悪く言っていたが、コイツが事実をマトモに記憶して話せるはずもないし……苦労したんだな」
「ちょっと! それってどういうことよ!」
黒髪の男はそう言うと同情の視線をアルハレム達に向けて茶髪の男が苦笑を浮かべ、アニーが怒鳴る。
どうやらこの二人の男は随分と苦労しているようだった。