魔物使いのハンドレッドクエスト   作:小狗丸

174 / 266
第百七十三話

 レンジ公国は元々、遥か昔よりこの地にある塔、ダンジョンに挑まんとする攻略者達が集まってできた場所だった。ヒューマン族を初めとする人間に数えられる全て種族の攻略者達が塔の周辺に拠点を作り、更にそこに攻略者達を相手とする商人達も集まり、そうしてやがてできた街がレンジ公国の始まりである。

 

 レンジ公国の初代国王は初めて塔のダンジョンを攻略したエルフ族で、数々の罠を潜り抜けて塔の最上階に辿り着きエリクサーを手に入れたエルフ族は他の攻略者達を少しずつ仲間にしていき、レンジ公国の基礎を作り上げた。そして現在のレンジ公国は、塔のダンジョンを観光名所とした中央大陸と外輪大陸にある各国と交流を持つ国となっており、国民もヒューマン族以外にもエルフ族、ドワーフ族、マーメイド族、バイパイア族の四種族が等しい割合で見受けられた。

 

「……そんな国だから目立たずにすむかと思ったんだけど、やっぱり無駄だったか」

 

 レンジ公国の王都を歩きながらアルハレムは渋い顔をして呟いた。

 

「アルハレム様? 一体誰に言っているのですか?」

 

「独り言だ。気にするな。……それにしても」

 

 リリアに答えてからアルハレムが周りを見ると、住民達が自分達に驚いたような視線を向けていた。

 

「見られているよな」

 

 五つの種族が入り雑じり、住民達も様々な格好をしているレンジ公国でもやはり人間が率いる魔女達の集団というのは珍しいのだろう。まあ、リリアを初めとする魔女達は全員滅多に見られない美人揃いであるため、例え人間であっても注目を集めるだろうが。

 

 しかしそれでも上位の魔物である魔女の集団を見ても、住人達が驚いた視線を向けるだけで逃げ出したり、攻撃してこないのは、流石はダンジョンを攻略せんとする猛者達が集まるレンジ公国と言うべきだろう。

 

「見られているけどそれがどうかしたの? 何を気にしているの」

 

「そうだね。別に襲いかかってきそうでもないし、例え襲いかかってきてもアタイ達だったらあれぐらい楽に返り討ちにできるだろ?」

 

 住民達の視線を浴びて落ち着かない様子のアルハレムにシレーナとウィンが言う。

 

「いや、そういう意味じゃなくて……おっと」

 

「きゃあ!?」

 

 アルハレムが後ろにいるシレーナとウィンの方を振り向きながら歩いていると通行人とぶつかってしまった。

 

「ちょっと! 何処を見ているのよ、危ないじゃない!」

 

「あっ、はい。すみませんで、し……?」

 

 ぶつかった通行人に謝ろうとしたアルハレムであったが、通行人の顔を見て目を見開き言葉を途中で止めてしまった。

 

 アルハレムとぶつかった通行人。それは魔物使いの青年が冒険者の旅を始めたばかりの時に出会った戦乙女、アニーであった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。