魔物使いのハンドレッドクエスト   作:小狗丸

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第百六十五話

「………?」

 

 ダンジョンを攻略することはできなかったが、そこのダンジョンマスターであるゴーレムの魔女を仲間にした次の日の朝。それまで眠っていたアルハレムは息苦しさを感じて目を覚ました。

 

(ここは、何処だ?)

 

 周囲を見回してみるとそこはどこかで見た覚えのある部屋で、最初はどこかの宿屋に泊まったのかと思ったアルハレムだったが、部屋の広さや備え付けられている質の良い調度品を見てすぐにどこかの貴族の屋敷ではないかと考え直した。

 

 アルハレムの予想通り、そこはとある貴族の屋敷の一室であり、彼はその部屋のベッドの上で横になっていた。

 

 

 ……全身をロープで何重にも縛られた上に、ベッドに繋がっている十数本の鎖で拘束された姿で。

 

 

「………………………………………………ふがっ!?」

 

 自分の今の姿に気づいてアルハレムは思わず声を上げようとしたが、彼の口には猿ぐつわがされていて声を出すことはできなかった。

 

(猿ぐつわ!? さっきから息苦しいと思っていたのはこれのせいか? だけど一体誰がこんなことを?)

 

「お目覚めですか、マスター?」

 

 アルハレムが自分の身に起こったことについて考えていると、そこに今や自分の愛剣ならぬ愛棒と言っても過言ではないインテリジェンスウェポンの魔女、アルマの声が聞こえてきた。

 

(その声はアルマか!? 丁度いい、この拘束を解いてくれ……って、何をしているんだ?)

 

 アルマの声がした方にアルハレムが視線を向けてみると、そこにはロッド形態のインテリジェンスウェポンが鎖で何重にも縛られて天井に吊るされていた。

 

「一体何をしているんだ、と言いたげな表情ですけど見ての通りです。鎖で拘束されて天井に吊るされています」

 

 インテリジェンスウェポンの魔女は、自分の主の表情を見てまるで心を読んだかのように彼の疑問に答える。

 

(……いや、拘束されて天井に吊るされているのは分かるけど、俺が聞きたいのは俺達が拘束されている理由なんだけど?)

 

 アルマの言葉にアルハレムが心の中で疑問を呟くと、インテリジェンスウェポンの魔女は再び心を読んだかのように自分の主に声をかける。

 

「マスター。マスターは昨日、地上に戻った時のことを覚えていますか?」

 

(昨日? 昨日は確か……)

 

 アルハレムは自分の武器の言葉を聞いて昨日の記憶を呼び起こしてみた。

 

 昨日、ゴーレムの魔女を仲間にしたアルハレムは彼女に頼んで飛行船のダンジョンをミナルの街、そこの領主の屋敷の近くにまで移動させた。そして飛行船から降りた彼は、領主の屋敷でリリアを初めとする魔女の仲間達と妹に再会した。

 

 突然アルハレムがいなくなったことで皆心から心配していたのだろう。魔物使いの青年の姿を見たリリア達六人の魔女と戦乙女は、全員嬉しさのあまり涙を流して彼の胸に飛び込んだ。

 

 ……ただ、その時の胸に飛び込んだ勢いというのが尋常ではなく、六人の魔女と戦乙女の突撃にはね飛ばされたアルハレムはそこで気を失い、次に目を覚ましたらこの部屋にいたのだった。

 

「思い出されたようですね」

 

 アルハレムが記憶を呼び起こしたのを見計らったようにアルマが声をかける。

 

「ここはミナルの街の領主様のお屋敷で、マスターをベッドに拘束したのはアリスンさんとリリアさん達の全員です。自分達が目を離した隙にどこかに行ったり誰かに拐われたりしないようにと。……まあ、私の場合はマスターと一緒にいながら誘拐を阻止できなかった罰なのですが。そして隣の部屋では……」

 

『………!?』『………!』

 

 アルマの言葉に促されてアルハレムが壁の向こう側に意識を向けると、何やら複数の女性達が大声で怒鳴りあっているのが聞こえてきた。怒鳴り声は段々と強くなっていき、会話の内容はよく分からないが、隣の部屋が戦場のような修羅場と化しているのは用意に分かった。

 

「現在、アリスンさんとリリアさん達が、ゴーレムの魔女さんとセイレーンの魔女さんにワイバーンのドラゴンメイドさんの三人と『お話』をしている最中です。……それでどうしますか? もしマスターがお望みならばこの程度の拘束、すぐに解くことができますが?」

 

「………」

 

 アルマの質問にアルハレムは両目をそっと閉ざすことで答えた。どうせ放っておいても自分が彼女達の「会話」に巻き込まれるのは明らかなのだから、今ぐらいゆっくりと休ませてもらおうと思ったのだ。

 

 単なる現実逃避ともいえるが。

 

「……グッナイ、マスター」

 

 しかしインテリジェンスウェポンの魔女は二度寝を決め込む自分の主を攻めるようなことはせず、むしろ労うような声をかけるのだった。


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