魔物使いのハンドレッドクエスト   作:小狗丸

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第百五十話

 休憩室でくつろいでいたセイレーンの魔女とワイバーンのドラゴンメイドを加えたアルハレム達は再び広間に来ていた。

 

「これで最後か……」

 

 一番目から十九番目までの扉を通り、二十番目の扉を開くとそこは休憩室……ではなく短い通路で、セイレーンの魔女の話が本当であればこの通路の先が次の階層となっているはずである。

 

「やれやれ、やっとかい。待ちくたびれたよ」

 

「まあ、こればっかりは運次第だから仕方がないけどね。でもアルハレム、次からはもっと早く正しい扉を見つけた方がいいよ? じゃないと色々としんどいことになるから。これ、アドバイスそのよんね」

 

 通路の先が次の階層に繋がっているのを見てワイバーンのドラゴンメイドが大きくのびをしながら言い、セイレーンの魔女がアドバイスをアルハレムに送る。セイレーンの魔女が言う「色々としんどいこと」に心当たりがある魔物使いの青年は、一つ頷くと先に進んだ。

 

 通路の先にある扉を開くと下へと続く階段があり、その階段を降りるといくつもの部屋が並んでいる、まるで船の乗客が宿泊するための空間に出た。恐らくは、いや、間違いなくこの部屋の扉は上の広間の扉と同じものなのだろう。

 

「これは……上の広間よりも厄介だな」

 

 周囲を見回したアルハレムが素直な感想を口にする。ついさっきまで何の遮蔽物のない上の広間に馴れていたせいで、複雑とは言わないが遮蔽物があって通路が別れているこの空間には僅かな戸惑いを隠せなかった。

 

「まずはこの階層の確認ですね。全ての部屋、というか扉の数と位置を確認しないと」

 

「いや、それより先にやるべきことがあるだろう」

 

 アルマの意見をワイバーンのドラゴンメイドが却下する。彼女の視線は魔物使いの青年もインテリジェンスウェポンの魔女も見ておらず、通路の先の曲がり角に向けられていた。

 

「やるべきこと?」

 

「……ああ、なるほど」

 

 アルハレムとアルマがワイバーンのドラゴンメイドの視線の先を見ると、通路の曲がり角から複数の人影、上の広間でも戦った骸骨の人形達が数体現れた。

 

「まずはここにいる敵を全て倒さないとなぁ!」

 

 ワイバーンのドラゴンメイドは獲物を見つけた空腹の肉食獣のように目を輝かせると、骸骨の人形達に向かって通路を駆けた……いや、翔んだ。

 

 獲物に向かって翔ぶワイバーンのドラゴンメイドは輝力を使って身体能力を強化していなかったが、その速さは輝力で身体能力を強化した戦乙女や魔女と同じくらいの風のような速さであった。そして当然、獲物である骸骨の人形達はそんな速さで向かってくるワイバーンのドラゴンメイドに反応できるはずもなく、通路を曲がってこちらを向いたのと同時に彼女の襲撃を受けた。

 

「オラァ!」

 

 ガゴォ!

 

 ワイバーンのドラゴンメイドは雄叫びと共に突進の速度を活かした渾身の回し蹴りを放つ。ドラゴンの脚力で放たれた蹴りの威力はもはや戦斧や戦鎚のそれであり、数体の骸骨の人形達はほぼ同時に頭蓋骨を砕かれて無数の金の骨、財宝にと姿を代えた。

 

「あれで素の身体能力ってことは、輝力を使えば一体どれくらい強いんだ?」

 

「ドラゴンの名前は伊達ではないようですね」

 

 ワイバーンのドラゴンメイドの戦いを実際に見てアルハレムとアルマは思わず感嘆の声を漏らし、骸骨の人形達を倒して手に入る財宝の為とはいえ、ワイバーンのドラゴンメイドが敵ではなく味方になってくれたことに安堵した。

 

 しかし、魔物使いの青年とインテリジェンスウェポンの魔女が揃って安堵の息を吐いた次の瞬間、異変は起こった。

 

 ……ガコン。

 

「ん? 何だ?」

 

「……っ!? マスター! 気をつけて!」

 

 突然、船全体を僅かに揺らす衝撃と音がしてきてアルハレムが首を傾げると、アルマの警告の声を出す。そしてインテリジェンスウェポンの魔女の声を合図にしたように、床や壁から数体の骸骨の人形達が出現してきた。


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